今日ご紹介する本は平田オリザさん著「22世紀を見る君たちへ これからを生きるための『練習問題』」です。奇しくも、22冊目に紹介する本、22世紀の子ども達に向けた本です。
平田さんには、以前ビクトリア大学に講演にいらした際に取材をさせて頂いたご縁があり、その後ご活躍を拝見させていただいていますが、この本は2020年初めに兵庫県豊岡市に江原河畔劇場を建てるプロジェクトのクラウドファンディングの応援購入で送られて来ました。
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今日ご紹介する本は平田オリザさん著「22世紀を見る君たちへ これからを生きるための『練習問題』」です。奇しくも、22冊目に紹介する本、22世紀の子ども達に向けた本です。
平田さんには、以前ビクトリア大学に講演にいらした際に取材をさせて頂いたご縁があり、その後ご活躍を拝見させていただいていますが、この本は2020年初めに兵庫県豊岡市に江原河畔劇場を建てるプロジェクトのクラウドファンディングの応援購入で送られて来ました。
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日本から本を送ってもらうことになったので、便乗して、村上春樹の新作も一緒に送って欲しいとお願いしました。「猫を棄てる 父親について語るとき」プライベートなことに関しては口が重いことで知られる著者が、珍しく、父親について語った本。そんなに厚い本ではないですが、ほぼ一冊まるごと父親の一生を追っています。まったくの外からの邪推ですが、ご自分も70を過ぎられた(これが未だにちょっと信じられない)春樹氏が、自分と家族のために父親の一生を書き留めておきたいと思われたのではないでしょうか。
1000冊紹介するシリーズ19回目はグレノン・ドイルのUntamedです。
グレノン・ドイルについては今までしっかり書いたことが無かったのですが、ここで触れているとおり、もともとは人気ブロガーから転身してベストセラーメモワリスト(日本語には訳が無いようですが、メモワールを書く人という意味です)になった女性です。敬虔なクリスチャンの家庭で育ち、拒食症とアルコール・ドラッグ依存を乗り越えて母になり、ブログMomasteryで超人気ブロガーになります。(私は当時彼女を知らなかったので、よく知らないのですが)
私は彼女の最初の本 Carry On, Warriorは読んでいないのですが、2冊目のLove Warriorは読み、とても感銘を受けました。彼女の結婚生活の話なのですが、途中で夫が浮気をしていたことを知り、傷つき、離婚を考えるものの、最後には夫とやり直すことを決めます。こうやって一文で書いてしまうと簡単ですが、その経過を細かく、感情的に記していて、人生のどん底に落ちたときにどう這い上がるかについての考察が書かれています。特に、この本で一番参考になったのは、Just do the next right thing, one thing at a timeという言葉で、以前書いたブログから引用すると、
夫と離婚する、と決断した翌日、子供達の遊ぶ様子をみて「この子達を悲しませることなんてできない。やっぱりもう一度がんばる」となり、でもその数時間後には「やっぱり私にはやりなおすことなんてできない」と迷いに迷うグレノン。心の痛みを、なんらかの確信でおさめようとしている自分に気づいた彼女は、こういうつらい状況の時は”Just Do the Next Right Thing, One Thing at a Time”と言っています。将来どうなるかわからない、でも、とりあえず今できる正しいことをやろう、と。とりあえず今日1日生き延びてみよう。明日の事や将来のことはまたその時考える、と。
とあります。私も、どん底で、何をすれば良いのか分からない状況に陥ったことがありますが、グレノンの、「今できる正しいことをやろう」という言葉にとても救われました。
さて最新の本のUntamedですが、これもまた彼女の波瀾万丈な人生が書かれています。実は、グレノンはLove Warriorを書き終え、世界中をブックツアーでまわる最中に、ある一人の女性に会い、恋に落ちます。その女性とは、元女子サッカーアメリカ代表でワールドカップで金メダルも取っている、アビー・ワンバックです。
ここだけ聞くと「え?彼女って結婚してるんじゃないの?」と思う人も居るでしょう。そうなんです。Love Warriorを書き終えた時、本の結末ではこれから夫婦で、家族でやり直すということになっていたものの、同じくブックツアー中だったアビーと偶然本のイベントで会い、ほぼ一目惚れのように恋に落ちてしまいます。これは、このUntamedを読んで分かることですが、アビーとの関係はしばらく伏せておいたグレノンは、Love Warriorが出た数週間後に、「夫とは別れます」と発表して大変話題になりました。その時にはすでにアビーと遠距離恋愛状態にあったそうですが、今Untamedを読んで振り返ってみて、答え合わせになるというか「なるほど、そういう経緯だったのか」と分かるようになっています。
アビーと恋に落ちた状況、夫に話して別れることを伝えたあとにアビーに会いに行くシーンなども詳しく書かれていて、恋バナが好きな人はわくわくして読めるのではと思います。とにかく、大恋愛のようで、幸せそうで、それでももちろん世の中の全てのカップルがそうであるように、喧嘩だってするし、意見の違いなどもあります。そのあたりを書いた章もあり、なかなか面白いです。
この本は短いエッセイが綴られたもので、夫とのエピソード、アビーとの恋愛、子育てに関する悩み、女性としてどう生きるか、などが読みやすい文章で書かれています。
私はグレノンもアビーもインスタでフォローしていますが、いつも幸せそうで楽しいカップル、と思う一方、グレノンは本当に神経質で、不完全で、コントロールフリークなのがよく分かります。この本にも、いかに自分が、愛する人を愛するがためにいかに全てをコントロールしなければ不安になっていたか、そして最後には、アビーは大人で、自分で決断できる女性なのだからそれを尊重しなければならない、という結論に達するまでを書いた章もあり、普通の人なら、自分がコントロールフリークであることを書く事さえためらうと思うのですが、彼女は自分の不完全さ、至らなさ、何に怯えているかなども臆面なく正直に書いていて、最終的には彼女に味方したくなるような本でした。
そしてこの本は超フェミニスト本でもあり、私たちがみんな心の奥に秘めているスパーク、野性といいましょうか、を再び復活させるにはどうすればいいのか?も書かれています。これについて、グレノンは4つの鍵を示しています。
妊娠が発覚した若いグレノンはすぐにアルコールとドラッグを止めて、グループでのミーティングに行きます。一人一人その日感じていることをシェアするのですが、禁酒6日目のグレノンは「辛い」と正直に打ち明けます。その時彼女が学んだことは「本当に人間であるということはハッピーになることではなくて、全ての感情を感じることだ」ということ。辛いこと、哀しいこと、恥ずかしいこと、、、あらゆるどん底を経験してきたグレノンは、「もうこれ以上耐えられない」と思ったことがあったけど、自分は全てそれを乗り越えてサバイブしてきたと振り返っています。そしてなんどもサバイブしていくうちに自分が怖くなくなってきたと。辛いことから逃げることはできないけれど、辛さを恐れることがなくなってきたのだそうです。
この本で特に印象に残った部分はこの二つ目の鍵、Knowingについて。「知っている」という意味ですが、私たちはみんな答えを心の奥底に知っている、それは時にはずっと奥に隠されていて、歩みを止めて、静かにしないと分からないこともある。グレノンは人を喜ばせようとしはじめてから自分を見失ったと書いています。しかし、今では自分以外の誰も自分を助けることができないのだと書いています。
I understand now that no one else in the world knows what I should do. The experts don’t know, the minsters, the therapists, the magazines, the authors, my parents, my friends, they don’t know. Not even the folks who love me the most. Because no one has ever lived or will ever live this life I am attempting to live, with my gifts and challenges and past and people. Every life is an unprecedented experiment. This life is mine alone.
人の意見に左右されずに、静かに立ち止まり、自分の奥底にある真実を探し出すことの大切さを説いています。
人生で辛い状況に陥った時、私たちはともすると「私はだめだ」と思ってしまいます。結婚して子供も居るのに「結婚生活ってこんなものなの?もっと喜びにあふれたものじゃないの?」と不満に思う女性。病気で死に近づいていく子供を抱えた、悲しみにくれる女性。そんな女性たちに、「あなたが想像できるもっとも本当で美しいストーリーはなに?」と聞くグレノン。まずはその質問に答えることから、自分にとって何が可能なのかを想像することができると書いています。いま行き詰まっている人は、自分にとって、「もっとも本当で美しいストーリー」はなに?と問いかけてみてはどうでしょうか。
女性は常に世間から渡されたメモに従って生きているとグレノンは言います。グレノンは「私は無私を女性としての頂点と定義したメモを燃やしたけど、まず、長い間その嘘を信じていた自分を許することにした」と言っています。世間は、女性がパートナー、子供そしてコミュニティへの愛を示す最高の方法は彼らのために奉仕し自分を見失うことだと説得してきました。そうやって女性たちは自分を失って行きます。そして女性が自分自身を失うと、世界も崩れてしまいます。だからそんなメモは燃やしてしまおうとグレノンは薦めています。
この本全体に通じるテーマは、本当の自分の大切さと、本当の自分を隠して、もしくは見つけられずに生きていくことの危険さです。周りを不快にさせる真実と、周りを快適にする嘘、あなたならどちらを選びますか。ティーンの子供たちに向けたメッセージも、他人をがっかりされる決断と自分をがっかりさせる決断があったら絶対に他人をがっかりさせる方を選ばなければいけない。絶対に自分をがっかりさせてはいけない、など、私でもずっと覚えておきたい部分が沢山ありました。
不完全だけど、本当の自分とMessyな人生をさらけ出して、正直に生きていくグレノンに、とても勇気づけられた本でした。
またこの本には「食べて、祈って、恋をして」の著者エリザベス・ギルバートとの友情や、グレノンが設立し、リズ・ギルバートやブレネー・ブラウンからもサポートを得ているチャリティ団体Together Rising、そして今社会問題になっているBlack Lives Matter運動についても書かれていて、そのあたりもとても興味深いです。
私はこの本をハードカバーで持っていますが、実はちょっとした手違いで、手元にもう一冊持っています。ですので、読みたいという方には抽選で1名様にグレノン・ドイルのUntamedの本をお送りします。応募するには、
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抽選は7月1日に行います。
Ivan Coyote(アイヴァン・カヨーテ)はカナダのストーリーテラー、スポークンワードアーティストそしてライター。ユーコン準州で生まれ育ったトランスジェンダーだが、カナダ特にBC州では人気がある。
私は2年前にビクトリアでTomboy Survival Guideのショウをみて以来アイヴァンの大ファンだ。今年もつい最近、アイヴァンと、パートナーのサラ・マクドゥーガルが二人でやるTrader Timeというショウも観たばかりで、それもとても良かった。この、本バージョンのTomboy Survival Guideはその時に購入してサインしてもらったもの。
本当に感動した本の書評を書くのは苦手だ。ボキャブラリーはほとんど「良かった」「素晴らしかった」「感動した」で終わってしまうから。この本も同じで、どのストーリーも素晴らしかった。
アイヴァンのショウを観たことがある人なら、アイヴァンがどのくらい才能あるストーリーテラーか、ご存じと思うが、この本も例外なく、素敵なストーリーに満ちている。
ユーコン準州で育った子供時代の話、きょうだいやいとことトラブルに巻き込まれた話、家族の話から、男ばかりの電気工学校時代の話、バンクーバーで映画のセットで働いていた時の話、トランスジェンダーとしての辛さや悩み、クイアとして悩む人へ充てた手紙、などなど、どれも、涙が出るほど笑えるか、感動するか、またはぶつけようの無い怒りでいっぱいになったりする。
そして、ストレートでトイレや更衣室を毎回なんの問題もなく使えてきた私にとって、トランスジェンダーのトイレ問題は(このことに関してはポッドキャストでも以前話しているが)本当に深刻だと実感させられたし、これからジェンダー問題と共に積極的にサポートしていこうと思った。
アイヴァンの文章はユーモアと愛に満ちていて、いつもやさしい。そして、はっと感心させられるような表現に溢れている。
アイリッシュカソリックの家族に育てられたアイヴァンだが、敬虔なカソリックだったおばあちゃんの「神様は間違いをおかしたりはしないんだよ。あんたは神様の思し召し通りの人間ってことを忘れちゃいけない」という言葉が胸に響いた。
アイヴァン・カヨーテはカナダの国宝だと思う。
今日読み終えた本は、山岸邦夫さんによるThe Return of a Shadowという本。山岸氏はバンクーバー島に在住の方で、何度かお目にかかったことがある。日本人の方が英語で書かれた小説ということで、ちょっと珍しい本といえるかもしれない。
読む前に知っていたことは、第二次世界大戦中のカナダでの日系人の強制収容に関して書かれているということくらいで、それ以外は殆ど何も知らずに読んだ。
日本人のオサダ・エイゾウは日本に妻と三人の息子を残して、単身カナダに出稼ぎに出る。最初はバンクーバー島で伐採業に就くがそのうち戦争が始まり、真珠湾攻撃後、日本人そして日系カナダ人は敵国の外国人として強制的に収容されてしまう。エイゾウは収容所で辛い日々を送り、妻子とも連絡が取れなくなってしまうのだが、ようやく終戦を迎えたあとは敗戦した日本に戻るより、カナダに残って仕事を続けた方が妻子の生活の助けになるだろうとカナダに留まる。そしていつのまにか40年ほどが過ぎ、ようやくエイゾウは日本に帰ることになる、というストーリー。
最初予想していたよりも読み進めやすい展開だったが、戦時中の日本人男性のエイゾウの考え方に、読んでいてときにイライラしてしまうこともあった。エイゾウは日本の家族に手紙を書き続けるが、そのうち日本からの返信が途絶えてしまう。一体、何が起こったのか?
エイゾウはカナダで定年を迎え、ついに日本に帰国し、彼がカナダにいた間に日本で何が起こったのかを知ることになる。謎が少しづつ明らかになっていく。
全体的なトーンはシリアスで暗い。でも戦時中、インターネットも安い国際電話もない時代を知らない私には、エイゾウの行動を一方的にとがめることはできない。この本の中で語られる一連の不幸な出来事は、その当時ならではの問題だったのではと思う。
本のトーンは全体的に暗いのだが、最後の方で思いがけない展開になり、びっくりした。最終的にはやはり哀しい話といえると思うが、それは必ずしもネガティブな意味ではなく、興味深い本だと思った。日系人の強制収容について何も知らない人は一読すべき重要な本だと思う。
テツロウ・シゲマツとの友情は2015年まで遡る。彼の1人芝居Empire of the Sonのチケットを偶然サイレントオークションでゲットしたのが事の始まりだ。当時はテツロウのことは知らなかったし、この芝居のことも全く知らなかった。ポスターをみて、何かのバンド?と思ったくらいだ。
私の予想は全く間違っていて、オットと一緒に2015年の秋にEmpire of the Son を観に行って私は打ちのめされた。Empireは、テツロウと彼の父親のストーリーで、日本人の父と息子の話、そして同時に後悔と哀しみの話でもある。私は芝居の大部分で泣いてばかりだった。
テツロウは素晴らしいライターで、名前をつけることができない感情を書き表すことに素晴らしく才能のある人。翌年に再演された時には、もう一度観に行ったくらいだ。今でも、私の中でナンバーワンの芝居である。
私は素晴らしいパフォーマーが大好きで、テツロウのように心のなかに特別な場所があるアーティストが何人かいる。Ivan Coyote やAlexandra Tatarsky もその中に入る。もっと簡単な言い方をすると、私は才能のあるアーティストの大ファンということ。
今ではテツロウを友人と呼べることに感謝している。よくテキストメッセージで会話するし、執筆について、暗記の仕方について、そして彼の制作中の次の芝居について、家族について、よく話をする。
去年、テツロウの最新作、1 Hour Photoを観に行った。今回の芝居は、マス・ヤマモトの人生が語られる。マスの娘、ドナ・ヤマモトは女優で、この芝居をプロデュースしたVACT(Vancouver Asian Canadian Theatre)のアーティスティック・ディレクターだ。
先日、テツロウが親切にも1Hour Photoの書籍版を送ってくれた。芝居でみたものを読み返して再度ストーリーを追体験できたのはとても良かった。
1 Hour Photoでは現在でもバンクーバーで健在なマス・ヤマモトの数奇な人生が語られる。マスの人生は第2次世界大戦中に日本人が強制的に収容所に送られたことで、一時停止させられてしまう。マスと彼の家族はレモン・クリーク収容所に送られ、父を早くに亡くしたマスは、家計を支えるためにりんご農園での仕事をしなければならず。他の友達のように大学に通うことができなかった。
しかしマスが普通の人と違うところは、その回復力だ。収容所から開放されたあと、マスは北極での仕事を取る、その後3つの大学の学位を7年かけて取得し、政府の研究員になる。そしてその後はJapan Cameraという北米の大きな写真屋チェーンで1 Hour Photoのフランチャイズを始めるのだ。
先日この本がテツロウから届いた日のブログにも書いたが、この本の巻頭にある写真家の引用が、まさにマスにぴったりだった。
“Character, like a photograph, develops in darkness”
性格は、写真と同じように、暗闇の中でつくられる。
彼の青年時代は日系カナダ人にとって非常に暗いものだったが、それが彼の回復力の強さを育てたのだろう。この本を読んでいて、芝居を見た時と同じことを思わずにいられなかった。それは、私はこの人生をめいいっぱい生きているだろうか?そして、どうすればマスのような並外れた人生を送ることができるのだろうか?ということ。
その答えはわからない。たぶん私はまだ人生の1章の途中なのだろう。
ブレネー・ブラウンのDare to Lead 読了。いつもなら一冊の本については1回のブログポストに収めるのだけど、この本はすでに読んでいる途中での感想を2回に分けて書いているので、(「自分にとって大切な価値観は?」「価値観を知ることがその人を知ること」)よろしければそちらもどうぞ。
ブレネー・ブラウンの本はThe Gifts of Imperfection,から Daring Greatly(「本当の勇気は「弱さ」を認めること」)Rising Strong (「立て直す力−感情を自覚し、整理し、人生を変える3ステップ 」)、 Braving the Wildernessと取りあえず全て読んできてどれも好きだが、個人的に一番好きなのはBraving the Wildernessだと思う。それまでは、Daring Greatlyだったけど。
今回の本は、タイトルからもわかるように、リーダーシップに関する本だ。
正直に言ってしまうと、これまでのブレネーの本を読んでいる人なら、この本はスキップしてしまってもいいかと思う。なぜならこの本には何も新しいことは書かれていないから。この本は、ヴァルネラビリティを受け止めて、それでもあえて挑戦するDaring Leaderになりたいと思う人への、まとめ本のような感じになっている。
私がブレネー・ブラウンという人が好きな理由は、彼女がストーリーテラーだからだ。これまでに読んだ彼女の本のなかで、今でも心に残っている話はたくさんある。「ビー玉のともだち」(信頼に関する話)や、喜びを受け止めることを恐れて最悪の状況ばかりを想定していた人の話、そして「自分で勝手に造り上げているストーリー」に関する、湖で泳いだ時の話など。他にもたくさんある。彼女はほんとうに、生まれながらのストーリーテラーだなあと毎回感心させられる。
この本に特に真新しいことが書かれていなかったことは少し残念だが、そのかわり、とても良いストーリーをいくつかシェアしてくれている。ひとつは、ブレネーがずっと楽しみにしていた、娘の高校最後のフィールドホッケーの試合を見に行けなくなった時の話(エンパシーに関するレッスン)、そして、これも「自分で勝手に造り上げたストーリー」に関する、ブレネーの夫のスティーブさんとの「Ham Fold-Over Debacle (ハムサンド事件)」は、思わず笑ってしまった傑作。いったいどういうストーリーなのかは読んでのお楽しみだが、どうしても気になる人には、実際会った時にお話することにする。それにしても毎回思うけど、スティーブさん、良い夫すぎる。
ブレネー・ブラウンのこれまでの研究結果のまとめとして1冊で読みたい人にはおすすめかも。私自身にも、良いおさらいになった。おさらいしたことを忘れずに、「恐れながらも、同時に勇気を出す」冒険に出たいと思わせてくれた一冊。
お友達から借りた乃南アサの「トウィンクル・ボーイ」読了。
すべて、子供を題材にした短編集。
実は、乃南アサさんの本を読むのはこれが初めてだったのだけど、この本自体かなり古い。1992年とある。
一見無邪気で天使のような子どもでも、ふとすると恐ろしいことをやってのけることもある。背表紙に「現代の『おそるべき子どもたち』ともいうべき7編」と書かれている通り、ちょっとギョッとするような話がつまっている。ただこの手の短編集だと、テーマが決まっているので、だいたい結末が予測できてしまうのが少し残念。。。星新一の本を読んでいるような気分になった。
私はこの本に出てくるような、子どもにぞっとする経験というのは幸いないけれど、思い出したこと。
昔、まだカムループスという内陸の街に住んでいたころ、当時保育園にいれていた長男を迎えに行ったときに見た光景。ある男の子が、砂場で、落ちていたカラスの羽根を拾って、口に入れていた。ギョッとしていたら、先生もそれを見つけて、「口に入れるのやめようね」とすぐに取り上げていたけど、特に潔癖症でもない私でも、あれはさすがにぞっとした。20年近く経った今でも時々思い出しては気持ち悪くなる。
これまでに紹介した【1000冊紹介する】シリーズはこちらからどうぞ。
2018年読んで良かった本の3冊目は、Richard WagameseのStarlightです。ワガミセはカナダではおそらく最も有名な先住民の作家ですが、カナダで育っていない私には、ほぼ全く知らない作家でした。ですが、とある尊敬する方が薦めていたことと、表紙の美しさに惹かれて手にとってみました。
日本語でもそうですが、洋書だと、詩的で美しい文体でも英語が母国語でない私には時々理解しにくいことがあります。すらすらと読める、または意味は理解できても読み進めるのに時間がかかる文体というものがやはりあるのですが、幸いワガミセの文章は前者なので、無理なく読み進めることができました。
ストーリーは、BC州の小さな街に住んでいる先住民の男、フランク・スターライトと、虐待する男から逃げ、隠れながらなんとか生き延びようとする若い母親、エミーとその娘ウィニーの話です。
スターライトは父親同然と呼べる男から譲り受けたファームで慎ましく暮らす、静かな男でしたが、ある日街で生活に困り食べ物を盗もうとしたエミーとウィニーに出会います。
元々心優しい男のスターライトは、二人を家に招待し、住まわせる代わりに食事や掃除などの仕事をまかせることに。スターライトは友人でファームの手伝いをするロスとも同居しているので、一気に4人暮らしに。
これまで暴力や嘘ばかりの人生を送ってきて、男性を信用することがなかったエミーと、ファームで静かに自然と共に生きてきたスターライトのふれあいが静かに、ドラマなく書かれ、読んでいて二人に共感し、好感を持たずにいられません。スターライトの親友ともいえるロスも幼いウィニーの世話をしてくれ、微笑ましい。ですが楽しいことばかりではなく、エミーが後に置いてきた男が復讐を目指してエミーとウィニーを探し追ってくる様子も各章で描かれ、そのあたりもハラハラさせられます。
自然と共に生き、昔からの先住民の教えを体感しながら生きるスターライト。そしてその生き方を少しづつ学んでいくエミー。
本当に、文章は静かで穏やかなのですが、読んでいて涙があふれてくるシーンも多くあり、リチャード・ワガミセの作家としての才能に関心しきりでした。
ワガミセは残念ながらこの本を完成させる前に亡くなってしまいました。ですが出版社は未完のままこの本を出版しています。途中で終わっている章のあとに、結末に関するメモと、出版社からのメモが載っており、ワガミセの過去の作品やメモをもとに、恐らくこういった結末になっていたであろうということと、出版社が未完のまま出版するにあたり参考にしたワガミセが残した言葉が添えられています。
“I once saw a ceramic heart, fractured but made beautiful again by an artist filling its cracks with gold. The artist offering a celebration of imperfection, of the flawed rendered magnificent by its reclamation. I loved that symbol until I came to understand that it’s not about the filling so much as it’s about being brave enough to enter the cracks in my life so that my gold becomes revealed. I am my celebration then. See, it’s not in our imagined wholeness that we became art;. it’s in the celebration of our cracks…”
それによると、(意訳ですが)、ワガミセは、欠けてしまったものを金で継ぐアートを見たことに触れ(日本の金繕いでしょうか)、それは単に壊れているものを金で美しくすることではなく、欠けているもの、壊れているもの、完全でないものを祝福することである、そしてやがてそれは金で欠けている部分を埋めるのではなく、欠けている部分を見せる勇気をの大切さに気がついたと書いてあり、思わず涙がこぼれました。
とても美しいお話なので、ぜひ読んでみて下さい。私は次に、彼の有名な作品、Indian Horseを読みたいと思っています。