2018年良かった本その3 : Starlight【1000冊紹介する-013】Day 4

2018年読んで良かった本の3冊目は、Richard WagameseのStarlightです。ワガミセはカナダではおそらく最も有名な先住民の作家ですが、カナダで育っていない私には、ほぼ全く知らない作家でした。ですが、とある尊敬する方が薦めていたことと、表紙の美しさに惹かれて手にとってみました。

日本語でもそうですが、洋書だと、詩的で美しい文体でも英語が母国語でない私には時々理解しにくいことがあります。すらすらと読める、または意味は理解できても読み進めるのに時間がかかる文体というものがやはりあるのですが、幸いワガミセの文章は前者なので、無理なく読み進めることができました。

ストーリーは、BC州の小さな街に住んでいる先住民の男、フランク・スターライトと、虐待する男から逃げ、隠れながらなんとか生き延びようとする若い母親、エミーとその娘ウィニーの話です。

スターライトは父親同然と呼べる男から譲り受けたファームで慎ましく暮らす、静かな男でしたが、ある日街で生活に困り食べ物を盗もうとしたエミーとウィニーに出会います。

元々心優しい男のスターライトは、二人を家に招待し、住まわせる代わりに食事や掃除などの仕事をまかせることに。スターライトは友人でファームの手伝いをするロスとも同居しているので、一気に4人暮らしに。

これまで暴力や嘘ばかりの人生を送ってきて、男性を信用することがなかったエミーと、ファームで静かに自然と共に生きてきたスターライトのふれあいが静かに、ドラマなく書かれ、読んでいて二人に共感し、好感を持たずにいられません。スターライトの親友ともいえるロスも幼いウィニーの世話をしてくれ、微笑ましい。ですが楽しいことばかりではなく、エミーが後に置いてきた男が復讐を目指してエミーとウィニーを探し追ってくる様子も各章で描かれ、そのあたりもハラハラさせられます。

自然と共に生き、昔からの先住民の教えを体感しながら生きるスターライト。そしてその生き方を少しづつ学んでいくエミー。

本当に、文章は静かで穏やかなのですが、読んでいて涙があふれてくるシーンも多くあり、リチャード・ワガミセの作家としての才能に関心しきりでした。

ワガミセは残念ながらこの本を完成させる前に亡くなってしまいました。ですが出版社は未完のままこの本を出版しています。途中で終わっている章のあとに、結末に関するメモと、出版社からのメモが載っており、ワガミセの過去の作品やメモをもとに、恐らくこういった結末になっていたであろうということと、出版社が未完のまま出版するにあたり参考にしたワガミセが残した言葉が添えられています。

“I once saw a ceramic heart, fractured but made beautiful again by an artist filling its cracks with gold. The artist offering a celebration of imperfection, of the flawed rendered magnificent by its reclamation. I loved that symbol until I came to understand that it’s not about the filling so much as it’s about being brave enough to enter the cracks in my life so that my gold becomes revealed. I am my celebration then. See, it’s not in our imagined wholeness that we became art;. it’s in the celebration of our cracks…”

それによると、(意訳ですが)、ワガミセは、欠けてしまったものを金で継ぐアートを見たことに触れ(日本の金繕いでしょうか)、それは単に壊れているものを金で美しくすることではなく、欠けているもの、壊れているもの、完全でないものを祝福することである、そしてやがてそれは金で欠けている部分を埋めるのではなく、欠けている部分を見せる勇気をの大切さに気がついたと書いてあり、思わず涙がこぼれました。

とても美しいお話なので、ぜひ読んでみて下さい。私は次に、彼の有名な作品、Indian Horseを読みたいと思っています。