【1000冊紹介する021】猫を棄てる 父親について語るとき

日本から本を送ってもらうことになったので、便乗して、村上春樹の新作も一緒に送って欲しいとお願いしました。「猫を棄てる 父親について語るとき」プライベートなことに関しては口が重いことで知られる著者が、珍しく、父親について語った本。そんなに厚い本ではないですが、ほぼ一冊まるごと父親の一生を追っています。まったくの外からの邪推ですが、ご自分も70を過ぎられた(これが未だにちょっと信じられない)春樹氏が、自分と家族のために父親の一生を書き留めておきたいと思われたのではないでしょうか。

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騎士団長殺し[1000冊紹介する:008]


13歳の時に「ノルウェイの森」を読んで以来ずっと村上春樹の本を読み続けています。いわゆる「ハルキスト」ではありませんが、日本の作家で毎回新作が出るたびに読み続けるのは彼だけです。

いつもは新作がでるとすぐにアマゾンで購入してカナダまで取り寄せるのですが、今回に限りタイミングを逃し、そのうち読まねば、と思っていたらすでに3ヶ月以上経っていました。幸いビクトリア在住のお友達が親切にも貸してくれたので、一気に読みました。
「騎士団長殺し」
読む前はタイトルの意味もよくわからなかったのですが、読んでみるとこのタイトルも各部につけられたサブタイトル「顕れるイデア編」「遷ろうメタファー編」も、読んでみるとまさにそのままなんだけど、渋すぎる。良い!

(以下ネタバレありますのでご注意)

SNSやGoodreadsのレビューにも書きましたが、これは典型的な春樹ワールドでした。主人公は肖像画を描くことを生業にする画家で、離婚のため、友人の父親である、とある有名画家の家に一時的に身を寄せるところから話は始まります。妻に去られ、一人で静かに暮らす様子は世界観としては「ねじまき鳥クロニクル」、また後半の冒険部分では私が大好きな「ダンス・ダンス・ダンス」や「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(この二つは私の中で村上作品のトップ2です)を彷彿とさせます。

春樹ワールドにおなじみの「美少女」「井戸」「恐ろしくチャーミングで裕福な男」「物が無くなる・人が消える」「壁抜け」「孤独」「音楽」「料理」「歴史」などがふんだんに盛り込まれていて読み進めながら「キタ−!」とワクワクしながら一気に読んでしまいました。

アンチ春樹の人はこういうところが嫌いなんでしょうけど、、、私は逆にそれが彼のスタイルだと思っているので、逆にないと面白くない。登場人物の会話も、「誰も『あるいは』とか普段の会話で使わないっしょ」と、ツッコミながら読むのが逆に面白いという。

ストーリーの流れとしては、キャラクターや設定が変わっているだけで、著者が意図したことなのかどうかはわかりませんが結局は過去作品と同じような気がしました。平和な生活→妻に去られる→一人→不思議なものを発見して話が展開。。。という。

有名画家の家に移り住んだある日、主人公は屋根裏部屋をみつけ、そこに隠されていた「騎士団長殺し」という絵を発見して、そこからどんどんと不思議な話が始まっていきます。

今までと全く違う村上作品を期待していた人や、過去2作「女のいない男達」や「色彩を持たない多崎つくる」のような本を期待していた人はがっかりするかもしれませんが、私は、「これっていつものパターンだよね」と思いつつも、そこまで気になりませんでした。思うんですが、世間の人って結局同じものの繰り返しが好きなんじゃないかなと思うんですよね。だって、Wes Andersonの映画とか、つまりは決まったスタイルを保った同じような映画ですし。

ただパターンが過去の作品に似てくるとつい先を予測してしまうというのは困りました。「この人絶対怪しい」とか「この人死にそうだな。。。」とか色々考えてしまいましたね。それも読書の楽しみのひとつなのかもしれませんが。

もちろん不思議なことも沢山起こります。起こるに決まってます。この「不思議系」で村上作品の好き嫌いは分かれるようですが。。。

後半のクライマックスのシーンでは、「ハードボイルド・ワンダーランド」の「やみくろ」を思い出しました。(しかしあの作品は今でも傑作だと思う)

最後のオチが個人的にはうーん、もう一踏ん張り欲しかった、という感じでしたが、これってもしかして「ねじまき鳥」みたいに後で3部が出たりするんでしょうかね?第2部の最後は(第2部終わり)としか書かれてないし。回収されない伏線や説明されなかった部分がいくつかあって、そのあたりが気になりましたが、全体としては楽しめたのでよしとします。読んだ方、ぜひコメントで感想シェアして下さい。

静かな感動をもたらす「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

子供のミドルネームに春樹とつけたくらいのファンの私ですので、もちろん、村上春樹の最新作、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は発売前から予約して購入しました。到着後すぐに読み終わったのですが、何度か読み返したりしていたので感想が遅くなってしまいました。

(ネタバレはしていませんが、作品中のいくつかのエピソードに触れていますので、まだ読んでいない方はご注意を。)

ストーリーの軸は主人公、多崎つくると彼の高校時代の親友たち4人の話。最初、タイトルを聞いた時「なんて訳わからんタイトルなんだ!」と思いましたが、ちゃんと本を読めば意味はそのままです。高校時代の仲良し5人組のうち4人の名前には、赤、青、黒、白と名字に色が入っていたのですが、つくるの名字には色がなく、よって「色彩を持たない多崎つくる」なんですね。

あらすじを簡単に説明すると、つくるは高校を卒業した後、一人だけ地元の名古屋を離れて東京の大学へ進学。しかし彼が大学2年のある日、親友たちから二度と会いたく無い、口もききたく無いと通告される。全く理由も明かされないまま、一方的に友情を断ち切られたつくるは傷つきながらも社会人になり、駅を造る仕事をし、それなりに不満の無い人生を送っていた。そんなつくるに、ガールフレンドの沙羅は、何故そんなことになったのか自分で答えを見つけるべきだと提案する。。。というお話。

村上春樹の前作「1Q84」に比べると、ストーリーはかなり普通ぽく、「国境の南、太陽の西 」に雰囲気が似てるなと思いました。

沙羅はつくるの高校生の時の話を聞いて、彼が4人の親友からグループを追放されたことを知り、何故彼がその理由を突き詰めて聞かなかったのか尋ねます。

「なにも真実を知りたくないと言うんじゃない。でも今となっては、そんなことは忘れ去ってしまった方がいいような気がするんだ。ずっと昔に起こったことだし、既に深いところに沈めてしまったものだし」

沙羅は薄い唇をいったんまっすぐ結び、それから言った。「それはきっと危険なことよ」

「危険なこと」とつくるは言った。「どんな風に?」

「記憶をどこかにうまく隠せたとしても、深いところにしっかり沈めたとしても、それがもたらした歴史を消すことはできない」。

この沙羅の台詞が、この物語でもキーフレーズになっています。記憶は隠せても、歴史を消すことはできない。

そしてつくるはそれぞれの友人達を訪ねて行きます。そう、まさに巡礼です。

「1Q84」や「ねじまき鳥クロニクル」ほど、「あっちの世界」に飛んじゃっていないストーリーなので、普通に楽しめると思います。特に物語の前半は、いったい何故つくるが追放されたのか、という点が謎になっているので、ぐいぐい読ませて、「ミステリーか、これは!」という感じです。

途中、いくつか謎のストーリーが挿入されています。大学の後輩、灰田(ミスター・グレイ)そして彼の話に出てくる緑川(ミスター・グリーン)など。カラフルな名前が沢山出てくるので、思わずボードゲームの「Clue」かと思ってしまいました。Mrs. Peacock、Colonel Mustard、Miss Scarlettとかね。

私は13歳の時に「ノルウェイの森 」を読んで以来、かれこれ25年も村上春樹の本を読み続けていますが、今回初めてグーグルやフェイスブック(どちらもカタカナ表記)が出て来て、さすがに時代が進んだな、と感心しました。

いくつか、意図が今ひとつつかめないストーリーも挿入されています。単なるエピソードで済ませていいのか、深読みしても今ひとつ理解出来なかったのが、「良いニュースと悪いニュース」のエピソードと、「六本目の指」のエピソード。「良いニュース/悪いニュース」は英語でよく使われるフレーズですが(”There’s a good news and a bad news” )、帯にまで載せるほど意味のあるエピソードには思えなかったのは、単に私の理解力が無いからでしょうか?指が一本多い人の話は過去の村上作品にも出て来ますので、村上氏の興味あるトピックなのかな、と思いますが。

物語の後半では、それぞれの友人と話をして行き、だんだんと真相があきらかになっていきます。前半はミステリーで読ませますが、この後半はゆっくり、じっくり読みたい会話が沢山でてきます。特に、最後に会う友人との部分は弱い人間の葛藤、そして精神の脆さに触れられていて、「ノルウェイの森」の直子、そしてレイコさんをなんだか思い出してしまいました。人の心の中にある闇、そしてそれを消してほしいと求める人間、このあたりは「ダンス・ダンス・ダンス」のキキの役割をふと思い出しました。そして、引用するこの部分は、特に美しい表現だと思いました。

そのとき彼はようやくすべてを受け入れることができた。魂のいちばん底の部分で多崎つくるは理解した。人と人の心は調和だけで結びついているのではない。それはむしろ傷と傷によって深く結びついているのだ。痛みと痛みによって、脆さと脆さによって繋がっているのだ。

最後の章ではつくるが自分の人生を振り返る様子が描かれていて、特にドラマティックでは無いものの、静かに心を打ちます。色を持たず、これと言った向かうべき目的を持っていなかったつくるが、失いたくないと思うもの。

何度か読み返しましたが、私はかなり好きな本です。私は「ねじまき鳥」や「1Q84」のような「あっち系」の話も気になりませんが、村上作品のああいった非現実な話が苦手という人でも、この「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は入りやすいのではないでしょうか。是非読んでみて下さい。