【1000冊紹介する022】22世紀を見る君たちへ これからを生きるための『練習問題』

今日ご紹介する本は平田オリザさん著「22世紀を見る君たちへ これからを生きるための『練習問題』」です。奇しくも、22冊目に紹介する本、22世紀の子ども達に向けた本です。

平田さんには、以前ビクトリア大学に講演にいらした際に取材をさせて頂いたご縁があり、その後ご活躍を拝見させていただいていますが、この本は2020年初めに兵庫県豊岡市に江原河畔劇場を建てるプロジェクトのクラウドファンディングの応援購入で送られて来ました。

夏前に届いて、暇をみてちょっとずつ読んでいたので時間がかかってしまったけれど、とても勉強になる内容だったので、できるだけ多くの人に読まれるべき本だと思いました。

日本の大学入試改革についての考察がメインですが、教育分野に詳しくない私のような読者にもわかりやすく説明されています。特に、これまでの詰め込み、暗記式試験からいわゆる「地頭」を測る試験への見直しが進むなかで、「身体的文化資本」の大切さが重要になってくることは、普段日本の外から日本の社会のありようについて嘆いている身としてはとても説得力がありました。「身体的文化資本」とは、本文から抜粋すると:

この身体的文化資本を「センス」と言ってしまうと身も蓋もないが、「さまざまな人々とうまくやっていく力」とでも言い換えれば、それが二〇二〇年度の大学入試改革以後に求められる能力に、イメージとして近づくだろうか。これまで述べてきた「主体性・多様性・協働性」はいずれも、この身体的文化資本に属する。これを、これまで使われてきた言葉でいうなら、広い意味での「教養=リベラルアーツ」と呼んでもいい。

とあります。ただこの身体的文化資本はいわゆる「努力すれば報われる」ものではないので、従来の大学入試システムを改革していくと、格差が生まれてしまうというジレンマも指摘されています。それではどうすればいいか。

(略)大学入試改革を進める一方で、その改革の本質を理解し、少しでも子ども達一人一人の身体的文化資本が育つような教育政策に切り替えていくことだ

とあります。

本書にはすでにこの点に気がつき始めた自治体が実際に使用した試験問題(大学入試ではなく町職員採用試験)なども多数載せられていてとても興味深いです。

他にも、「対話」と「会話」の違い、また「子ども達の文章読解能力は本当に『危機的』なのか?」など興味深い章もあるのでぜひ読んでみてください。

もうひとつ興味深かったのが「非認知スキル」という言葉。非認知スキルとは:

IQや学力テストで測れる「認知できる能力」に対して、測定が難しいが知識や思考力を獲得するために必要だと思われる能力全般を指す。具体的には、集中力、忍耐力、やり遂げる力、協調性などなど、とにかく広範囲にわたる

とあります。SES(Social Economic Statusー家庭の社会経済的背景)にはどうしても差がでてしまいますが、非認知スキルとSESにはあまり相関性がなく、非認知スキルを高めることができれば、学力を一定程度押し上げる可能性があるという指摘には深く頷いてしまいました。

それではどうやって非認知スキルを高めるのか。SESが低くても成績が良い生徒達が、どのような非認知スキルを持っているかを調査することがこの問題を解くヒントになると書かれています。また、子ども達は先生の言っていることを殆ど聞いていないが、クラスメイトの発言には影響を受けるそうです。ここで平田氏は演劇教育の重要性を説いています。

巻末には付録として多くの過去の試験問題も載せられています。

例えば、

「2040年、人口減少、少子化が進み、いよいよ都道府県レベルでの合併を行わなければならなくなりました。

日本で最も小さい香川県は、当然、合併の対象となります。

どの県と合併するか、実現不可能と思われる案も含めて6つないし7つの案を考えてディスカッションドラマを構成してください。

とにかく沢山の目から鱗の情報、アイデア満載の本なので、教育に関わる人達はもちろん、全ての親御さんにも読んで頂きたいなと思いました。