最近ポッドキャストにはまっていて、暇があるといろいろ聞いています。特に気に入っているのがアメリカの公共ラジオNPR(日本のNHKのような感じでしょうか)。This American LifeなどはNPRの看板長寿番組でこちらもおすすめですが、今日ご紹介するのはTEDトークをトピックごとにまとめて紹介するTED Radio Hour。先日聞いて特に心に残ったのが年末に放送されたJust a Little Nicerというエピソード。
5人のTEDスピーカーの話をクリップで紹介しつつ、各スピーカーとのインタビューも交えた構成ですが、これが毎回深く考えさせられる内容で、とてもいいんです。
この日のエピソードはCompassion(思いやり)。
最初に登場するSally Kohnの仕事は保守寄りで有名なFOXニュースのコメンテーター(現在は主にCNNのようです)ですが、保守層の視聴者が多いFOXでリベラル、しかも同性愛者、プラス女性であることから、視聴者からの意地悪なコメントは後が経たないと言います。「頭悪いんじゃない」など、普通なら面と向かっては絶対に言わないようなことをネットでは平気で言う人が沢山いるそうです。
彼女のTEDトークでは、よく使われるPolitically Correctness(政治的、道徳的に正しいこと)ではなく、Emotional Correctnessが大事であると説いています。何を言うのかでなく、どう言うのか、が相手を説得する際に非常に重要だというのです。彼女はリベラルですが、時として自分以外の意見について否定的だったり、独善的だったりすると反省しています。ところが、政治的には彼女と正反対の意見の保守派の人たちは、一転して、ものすごくいい人が多いのだそうです。
彼女が一緒に仕事をしている保守派の有名なコメンテーター、ショーン・ハニティは、政治的には(彼女から言うと)99%間違っていると思える人ですが、Emotional Correctnessがものすごく高いため(空いた時間にはスタッフをブラインドデートにセットアップしたり、何か困ったことがあれば真っ先に助けてくれる)、そういう人だからこそ、たとえ自分と正反対の意見でも、とりあえず意見を聞こうという気になる人が多いのだと説明しています。
全く反対の意見に対して、あなたの主張は間違っている、と伝える場合でも、誠意を持って会話をすることが可能だ、そしてそれは必要なことであると彼女は言います。
彼女には沢山のヘイトメイルが届くそうですが、中にはとても心温まるメッセージも来るとか。特に嬉しかったのは「あなたの政治的意見には反対だけど、私は人としてのあなたの大ファンです。」というもの。それは彼女が何を言ったかでなく、どういうふうに言ったかが彼の心に響き、だからこそ彼女の話を聞こうという気になってくれたのでしょう。だからこそ、会ったこともないこの視聴者と、通じ合えることができたのだと。
Our challenge is to find the compassion for others that we want them to have us, that is emotional correctness.
自分に対して持って欲しい思いやりを相手に対して持つこと、つまりエモーショナル・コレクトネスを持つことが私たちの課題です。
I’m not perfect. But what I am, is optimistic.
私は完璧ではありませんが、希望は持っています。
思いやりとは何か
二人目のスピーカーは公共ラジオ・ポッドキャストのOn Beingという番組のホスト、Krista Tippett。実は私もこのエピソードがきっかけでクリスタの番組を聴くようになり、大ファンになったのですが、その話はまたの機会に。
クリスタのTEDトークは、Compassion(思いやり)について。
普段から常に人間であるとはいったいどういうことなのか、というテーマで多くの人にインタビューしているクリスタですが、Compassionという言葉には、新聞の『ちょっといい話』欄に載せられる感傷的なものや、または一般の人にはとうてい真似できないような英雄に使われるものというイメージがあると言います。
それではコンパッションを私たちに理解できる言葉で解釈するといったい何になるでしょうか。
クリスタはコンパッションは親切さ(Kindness)と言い換えられると言います。親切さというとあまりにもありふれたもののように思えますが、これは、毎日の生活の中で培われる美徳の副産物であり、またとても簡単に人を喜ばせることができるものであると言います。
コンパッションはまた好奇心が強い(Curious)ことであるとも。思い込みを捨てて、相手を知ろうとすることですね。
共感、許し、和解、そして存在ーその場に居てあげること、姿を見せること(Showing Up)もまた、「思いやり」の表現だと言います。
また面白いのが、思いやりとはまるで語学の習得のように実際に練習することができ、実践すればするほど身についてくるものなのだとクリスタは説いています。
思いやりの科学的背景
科学ライターのRobert Wrightは科学的な見地から、思いやりについて語ります。自然淘汰やゼロサム/ノンゼロサムゲームというゲーム理論に関して彼のTEDトークで触れています。人間というものは、自分に親しい人、自分に有利になる人にまず親切にするようにデザインされているので、他人に思いやりをもつことは簡単ではないと説いていますが、テクノロジーの発達よって、「親しい人」の定義がどんどん広くまた複雑になってきていると言っています。
黄金のルール
元修道女のKaren Armstrongは17歳で修道院に入り、あまりにもそこでの生活か惨めだったためオックスフォード大学でで文学を勉強するために修道院を辞めました。今では宗教の歴史家として活躍しているカレンですが、かつてはかなり毒舌だったそう。「あなたって誰のことも良く言わないのね」と指摘されたこともあるそう。
宗教から切り離されたあとで思いやりを発見したというカレンは、世界中の宗教を研究し始めて、どの宗教も黄金のルールというものを説いていると説明します。「自分がして欲しいことを、他人にしなさい」そしてその反対バージョンの「自分がして欲しくないことを、他人にしてはいけない」。ですが、今でもこのルールを守るのは時にはとても難しいと彼女も認めています。
この黄金のルールは、幼稚園の子供たちに教えるようなルールですが、世界中にはまだ沢山の戦争や対立に満ちあふれています。それはなぜかというと、心優しくなるよりも、正しくあることが重要であると思う人が多いからだそうです。宗教を自分のアイデンティティを強めるために利用している人が多いと。
こころの知能指数
心理学者のDaniel GolemanはEmotional Intelligenceという言葉を作り出した人として最もよく知られています。日本では「EQこころの知能指数」というタイトルで出版されています。
彼のTEDトークは、Empathyについて。
北米では、道ばたでホームレスの人たちがお金を集めているのは珍しい光景ではありませんが、彼らに小銭をあげる人たちはごく一部です。
ダニエル自身はほぼ毎回お金を恵んでいるとのこと。そして彼の質問は、お金をあげない人たちは、何故ホームレスを無視しているのか?ということです。
神学校に通う生徒たちを対象にクラスの半分にはGood Samaritan(善きサマリア人)、つまり見知らぬ人を助けてあげることの大切さ、そして残りの半分の生徒にはランダムな講義を聞かせ、その後別の校舎に向かう途中で、道で苦しんで居る人に出会うとどうなるか、というプリンストン大学の実験があります。結果は、サマリア人の講義を聞いたかどうかと苦しんでいる人を助けるかどうかには全く因果関係はなく、その生徒が急いでいるかどうかが鍵だったと言います。
ダニエル自身も同じような経験があるとのこと。ニューヨークの地下鉄で、苦しんで倒れている人を見かけたそうなのですが、周りの人たちはいっこうに気にとめず、歩き続けていたとのこと。ですがダニエルがその男性に声をかけた瞬間、周りに居た人たちが一斉に助けに集まったそうです。この男性は英語を話せず、お金がなかったため空腹で倒れたのだとわかるとすぐにジュースやホットドックを持ってくる人たちがいました。
ダニエルは、ホームレスの人々は多くの人々の周辺視野になってしまっている、大事なことは彼らに気づくことだと言います。
いちど気がつきさえすれば、上の例のように助けの手をさしのべる人たちは沢山いるのです。
また興味深いポッドキャストがあれば紹介していきますのでお楽しみに。