【おすすめポッドキャスト002】カナダの先住民に関する負の遺産 Missing & Murdered

前回ではThis American Lifeをご紹介しましたが、今回おすすめするポッドキャストは、かなりシリアスな内容です。カナダの公共放送であるCBCでは様々なテレビ、ラジオ番組を英語とフランス語で提供していますが、今日ご紹介するのはCBCラジオのオリジナルポッドキャスト 、Missing & Murderdです。Missing とは行方不明になっていること。Murderedは殺された、という意味ですが、一体どんなポッドキャストだと思いますか。

カナダの負の遺産

アメリカと同じく、カナダも元は先住民の人々の土地でした。先住民は、アメリカでいうネイティブ・インディアンですが、昨今は「インディジネスIndiginous (その土地の土着の、という意味)」と呼ぶことが多いです。(先住民の方達を「インディアン」と呼ぶことは最近では失礼ということになっていますので気をつけましょう。)

カナダの先住民は大きく3つに分けられ、それらはおもに「ファースト・ネイションズ」「Métis メティス」そして「イヌイット」の人々です。

カナダには634以上の先住民民族がいると言われています。北米の先住民は千年以上の歴史がありますが、15世紀の終わりに白人の入植者達がやってきて以来、差別され、虐げられてきました。

カナダやアメリカでは19世紀の初めから先住民の子供達は同化教育のため、親から引き離され、政府の管理のもの教会が運営するインディアン寄宿学校レジデンシャル・スクール)に送られました。

1831年に最初のレジデンシャルスクールが出来て以来、レジデンシャルスクールに送られた子供達の数は合計150000人。

レジデンシャルスクールでは子供達は英語を話すことを強いられ、番号のついた制服を着せられ、長髪の男の子は髪を切られ、先住民の母国語を使うと罰せられました。”Kill the Indian in the child (子供の中のインディアンを殺す)” こと、まさに、文化的ジェノサイドを目的としたもので、強制収容所と同じでした。授業と言われるものは半日のみで、残りの半日は女の子は掃除や洗濯、男の子達は畑仕事などの労働にこきつかわれました。身体的、精神的、そして性的虐待も日常茶飯事で、脱走し、途中で捕まえられた子もいれば(そういった場合は子供達は拷問を受けました)、親のもとに辿り着く前に寒さや飢えで死んでしまった子もいました。死亡した子供達の数は最低でも3200人と言われていますが、おそらく6000人を超えると言われています。

カナダでは「Heritage Minutes」と名の付いた、カナダの遺産を紹介する短いコマーシャルがよくTVで流れますが、近年制作されたものはレジデンシャルスクールに関するもので、涙なくしては見れないものになっています。負の遺産です。

信じ難いことですが、最後のレジデンシャルスクールが閉校したのは1996年のことです。学校から解放されても、レジデンシャルスクールの経験者は大きなトラウマを抱え、数世代に渡って精神的問題やまたそこから不随してアルコール中毒などの問題を抱える人も多くいます。レジデンシャルスクールは、カナダの歴史の最も大きな汚点と言えるでしょう。

2008年に、真実と和解委員会が設立され、このレジデンシャルスクールをはじめ、カナダ国家が先住民の人々に与えた精神的、身体的苦痛とトラウマを記録し、和解と癒やしに向かうために作られました。

Missing & Murdered: Finding Cleo

CBCのジャーナリスト、コニー・ウォーカークリ−系カナダ人でこのポッドキャストのホストでもあります。

カナダやアメリカでは、先住民の女性が殺されたり行方不明になることが多く、カナダの国難、社会問題になっています。Wikipediaによると、1970年代から殺されたり行方不明になったインディジネスの女性の正確な人数は不明ですが、恐らく1000人から4000人と言われています。このMissing & Murdered ポッドキャストのシーズン1では、行方不明になった若い先住民の女性、アルバータ・ウィリアムズの事件を追っています。

今回ご紹介するのはシーズン2の「Finding Cleo」です。

サスカチュワンのクリ−系の女性、クリスティーンからの手紙でポッドキャストは始まります。クリスティーンは6人兄弟の末っ子。

子供の頃に、クリスティーンと他の兄姉はみな母親のリリアンから引き離され、それぞれ別のフォスター・ホーム(里子)にだされ、やがてカナダやアメリカの白人家庭に養子に出されました。これは、いわゆるSixties Scoopと呼ばれるもので、先住民の子供達を親から引き離し(多くの場合、親や部族の許可なしにです)、児童福祉制度に入れ、里子や養子に出していました。これは60年代の前から行われていましたが、60年代に最も頻繁に行われたため、そして生まれたばかりの子供を母親からScoop(すくう)したため、こう呼ばれました。当時カナダ政府は白人社会向けに「先住民の子供を養子に取ろう」という政策を打ち出しており、TVコマーシャルまで流していたそうです。

Sixties Scoopに関する絵で、ポッドキャスト中でもでてくるのかカナダのクリ−系アーティストのケント・モンクマン(素晴らしいアーティストなのでぜひサイトをチェックしてみて下さい)による絵のThe Screamです。RCMP(Royal Canadian Mountain Police – 王立カナダ騎馬警察)、司祭そして修道女が、先住民の子供達を連れて行こうとしています。泣き叫ぶ子供達と、母親。観ることがつらい1枚です。

The Scream by Kent Monkman 2016

クリスティーンは兄ジョニーや姉クリオ達と6人兄姉でサスカチュワンで育ちましたが、子供の頃に、ソーシャルワーカーがやってきて母親を残して連れ去られました。その後グループホーム(いわゆる児童養護施設のようなもの)に入れられたあとそれぞれ別の家庭に里子に、そしていずれは養子に取られました。

クリスティーンはネットなどを利用して散り散りになった兄姉を探し出し、今では連絡を取り合っていますが、唯一行方が分からないのが長女のクリオ(クレオパトラ)だそうで、CBCのコニーに「私の姉を探して欲しい」と連絡を取りったのがこのポッドキャストの始まりです。

長男のジョニーはアメリカの家庭で養子に取られ、カナダに戻ることはありませんでした。ジョニーは今ではペンシルバニアに住んでいます。ジョニーはソーシャルワーカーに「クリオは養子に行く先が決まったので、さよならを言うように」と言われたのが彼女の姿を見た最後だと言います。当時ジョニーは13歳、クリオは8歳か9歳くらいでした。

それ以外にクリスティーンやジョニーが知っているのはクリオが11歳の時に亡くなったということのみ。どういう経緯で亡くなったのか、一体クリオに何が起こったのか、クリスティーン達は答えを探しています。

クリスティーン、ジョニー、そしてその他の姉妹、過去の里親、時には政府組織に連絡を取りながら、コニーはクリオの行方を探します。

クリオは一体どこに行ったのか?どうして亡くなったのか?クリオは何故母親から引き離されたのか?最初は分からないことばかりですが、少しづつ謎が解けていきます。ネタバレはしませんが、このシーズンはシーズン1と違ってドラマティックな結末があります。かなりショッキングな結末ですが、カナダのSixties Scoopが先住民の子供達にどんな影響を与えたのか、私達にはこのポッドキャストを聴いて、彼らのストーリーを知る義務があると思うのです。

この数年、北米ではTrue Crimeという犯罪もの、殺人ものジャンルがとても人気で、このおすすめポッドキャストシリーズでもTrue Crimeのポッドキャストを紹介していこうと思っていますが、このMissing & Murderedは単なる調査報道ものではなく、カナダの暗い歴史という社会問題にスポットをあてているという点で注目されるべきポッドキャストだと思います。カナダだけでなく、世界中で現在話題になっています。ぜひ聴いてみてください。