カナダ在住日本人移民の横のつながり

ウィニペグにあるCanadian Museum of Human Rights

全カナダ日系人協会については、2017年のオタワでのカンファレンス、そして2015年のビクトリアでのカンファレンスについて、それぞれ書いていますが、今年2018年のAGMとカンファレンスはウィニペグで行われました。

日系カナダ人が第2次世界大戦時に敵国の市民として強制的に収容、移動させられたことについてはこれまでにも何度か書いていますが、今年はその収容等に関する謝罪と補償(リドレス)が政府から認められてから30周年ということ、そしてウィニペグのCanadian Museum of Human Rightsがカンファレンスとガラ会場ということもあり、今年は人権にフォーカスが置かれたカンファレンスでした。

リドレス書類に署名するブライアン・マローニー首相の写真。隣に写っているのがアート・ミキ氏

ウィニペグのアート・ミキ氏は、1988年に当時カナダの首相だったブライアン・マローニーと共に、戦時中の強制退去によりトラウマを負った日系カナダ人への謝罪と補償(リドレス)の実現に貢献した日系カナダ人のリーダーとしてカナダ全国に名前の知られた人ですが、今回マニトバ日本人協会からLifetime Achievement Awardを与えられました。

本文と関係ありませんが、日系カナダ人作家のマーク・サカモト氏に会うことができたのも今回のカンフェレンスで嬉しかったことのひとつです。

金曜日から始まったAGMとカンファレンスですが、今年のセッションは「癒やしとしてみるリドレス」「リドレス30年後の今、リドレスは何を意味するのか」「他コミュニティに聞く、人権問題の対処法」など、先に述べたように人権問題に強くフォーカスしたセッションが多くありました。

各コミュニティに聞く、人権問題への対処法

特に、中国系カナダ人(Head taxという、移民1人あたりの不公平な税金をかけられた)、ウクライナコミュニティ(第1次世界大戦時に日本人と同じように強制収容された)、先住民/インディジネスコミュニティ(インディアン寄宿学校・行方不明または殺害されたインディジネスの女性達)の代表に集まって話してもらった各コミュニティの人権に関する取り組みのセッションは非常に勉強になりました。特に心を打たれたのが、インディジネスの大学講師として人権問題に取り組み、アクティビストとしても活動されているNiigaan Jim Sinclair氏の「先住民でいるということは、自分の家に勝手に知らない人が入ってきて、トイレに押し込まれること」というたとえ話でした。カナダやアメリカに白人がやってきて以来、先住民の人達はリザーブと呼ばれる居住地に追いやられてしまいました。このあたりの話はポッドキャストで詳しく話しているのでぜひ聞いてみてください。

カナダ中から集まった日系カナダ人。世代を超えたトークが印象的だった

他にも、人権団体として、今起こっている人権問題(アメリカを初めとする移民排除感情や、性差別、LGBTQ差別などなど)にどう取り組みべきか、などグループでのディスカッションもありました。ポッドキャストでもよく話していることですが、まずは、「知らんふりをしない」、何か不正義(Injustice)が行われているのを目撃したら声をあげる、ということは何人もの人から意見が寄せられました。もちろん、言うは易し、ですが、少しづつ日々の生活の中で練習していくことが大切だと思います。

最後のセッションは、次の世代の日系カナダ人との会話というグループセッションで下は20代から上は90代まで、セッション参加者で輪になって様々な意見を交換するというもので、これも、腹を割った意見交換ができて、とても良かったと思います。

日系カナダ人ではない、一日本人移民として思ったことは、今年のカンファレンスには移民に関するトピックが全くなく、寂しいなあということでした。去年は、移民の参加者で集まって、NAJCがカナダに住む日本人移民のために何ができるかについて色々を話をしたのですが。。。

戦時中に強制収容された世代はどんどん年代が上がってきており、次の世代を担っていくのは日系4世、5世の若者達です。彼らは日本語が話せることがあまりなく、日本の文化からも離れてきてしまっていますが、必ずしもそれは本意ではなく、もっと日本の文化について学びたいという人も多いようです。実際、今回のカンファレンスで知りあった20代の若者の中には、つまみ工芸を学んでヘアアクセサリーを作っている人や、日本の「感謝」というコンセプトでビクトリアでお芝居をプロデュースしている人も居ます。

NAJCは日系カナダ人の団体なので、私達のような日本人移民には関係ない、と思う方も多いかもしれませんが、私はそうは思いません。実際、今年のカンフェレンスでも、ウィニペグ、オタワ、エドモントン、ホワイトホースに住む日本人移民の方々とお友達になれました。

カナダに住む日本人移民同士のつながりを強めたい。

トロントやバンクーバーのような都会では、日本人移民向けサービスが充実しており、メディカルサービスやシニアケアなどが日本語で受けられたりしますが、ビクトリアのような小さいコミュニティではまだまだそのようなサービスはありません。例えば、ビクトリア近辺には日本語の話せる精神科医という方がいません。(以前はいらっしゃったのですが、最近リタイアされたとか)そのような時に、日本語でカウンセリングのできる精神科医のような方にアクセスできると、心強いなあと思います。

今回ウィニペグでお会いしたみなさんには、カナダ在住の日本人移民の横の繋がりを強めましょうね、とお話しました。

今年から、トロント在住の日本人の方がNAJCの理事に入られましたので、これからますます、NAJCによる日本人へのサービスが拡大されていくことを期待します。

カナダに住む日本人移住者へのサービス

私が住んでいるビクトリアにはビクトリア日系文化協会(Victoria Nikkei Cultural Society-VNCS)という団体があり、私はそこで理事の1人としてボランティアしていますが、先週末、VNCSがメンバーとして加入している国レベルの団体、日系カナダ人協会(National Association of Japanese Canadians-NAJC)のAGMとカンファレンスにビクトリア代表として出席するため、オタワまで行ってきました。 2015年にはこのイベントをビクトリアで開催し、その時のことはこちらのブログに詳しく書いています

2011年の統計によれば、カナダに住んでいる日系人(日本人、日系カナダ人を含め、バックグラウンドが日本だと言う人)は10万人程度いるのだそうで、そのうち移民は2万5千人、子供が3万人で、日本からやってきたいわゆる「新移住者」は5万5千人、全体の半分以上を占めていますが、NAJCの名前を聞いたことがある人は少ないかも知れません。NAJCはこれまでは主に「日系カナダ人」をサポートする団体として知られています。

カナダには19世紀の終わりごろから日本からの移民が増え、「一世」と呼ばれていますが、これらの人々の多くは、カナダで出稼ぎをして日本に帰るのではなく、カナダ人としてカナダに骨を埋めるためやって来た人達です。第二次世界大戦中、真珠湾攻撃の前後から、日本人は敵国の人種と見なされ、1942年、ブリティッシュ・コロンビア州西海岸に住んでいた日系人は、家を退去するよう命令され、BC州内部の小さなコミュニティに強制的に移動させられました。家や車、漁船などの資産はそのまま置いていくように指示され、殆どが没収され、強制収容そのものの資金を作るために所有者の許可なく売り払われました。

このあたりの歴史は日本の学校でも学ばないので私もカナダに来るまで殆ど知らなかったことです。(詳しい内容は日系博物館のサイトをどうぞ。)

1998年にカナダに移住してきて以来、日本人の友達は少しづつ増えて行き、ビクトリアにあるVNCSで日本の文化を伝える活動をしていることを知り、会員になり、数年前からは理事として参加しています。日系文化協会(VNCS)の会員の殆どは日系カナダ人またはカナダ人で、私のような日本人移民は三割程度でしょうか。会員になるには日本人や日系人でなければいけないという決まりもないので、日本の文化に興味のある人なら誰でも参加できます。

NAJCでは、日系カナダ人の高齢化が進み、その人口も減ってくると共にそれに反比例する形で日本からの移住者が増えてくることを鑑みて、移住者へのサービスを積極的に行うことを現在思索中です。

オタワでのカンファレンスでは、新移住者をテーマにしたパネルディスカッションがあり、カールトン大学助教授の朝倉健太さんと主婦のニワノマリコさんからそれぞれお話を伺いました。朝倉さんからは、LGBTQの若者が日本の移住者の家庭でどのように感じているかなど非常に興味深いお話を伺うことができました。ニワノさんは、お子さんの居る主婦という立場から、カナダに来たばかりの頃、日本語でなかなか情報が得られなかったこと、今後の子供達の日本語力に関してなどご自身の体験をお話いただきました。

その後、日本語・英語両方にて、「NAJCが移住者に関して何ができるのか?」というテーマでのディスカッションも行われました。私は英語のグループにたまたま入りましたが、日本人移住者と日系カナダ人の間に溝を感じる人が多いことや、移住者の立場から、あったら嬉しいサービスなどについて様々なディスカッションが繰り広げられました。

私自身は移住者ですがNAJCやVNCSのような日系団体に積極的に関わっていますが、日本人移住者は日本語が通じる日本人のグループ(お母さんのグループや、趣味のグループなど)で集まり、特に日系人と交わる必要性を感じない方も多いと思います。全体的な感情としては、日系カナダ人のみなさんやNAJCの様な団体は、日本人移住者のみなさんと交流したい、サービスを提供したいと思っている人が大半です。

あくまで私個人の意見ですが、私はこのディスカッションでは「日本人移住者は日系人と交流する必要性を感じていないので、移住者にサービスを提供したり交流したければ、移住者がそうすることのメリットまたはバリュー(価値)を提供しなければいけない」と伝えました。

移住者のパネルディスカッションでお話下さったマリコさんは、「来たばっかりのころは英語ができなかったので、日本語での生活サポートがあると嬉しい」と仰っていました。

ただ、英語ができない人への日本語でのサポートは、オンラインはもちろん、オフラインでも、大きな都市ではすでに提供されています。バンクーバーには隣組という日本人のサポート団体がありますし、トロントにはジャパニーズ・ソーシャル・サービスがあり、カウンセリングや情報提供を行っています。

ビクトリアにはソーシャルサービスの団体はありませんが、クチコミなどで様々な情報を得ることができます。VNCSでもメールを頂ければできる限りのお手伝いはしています。

日本人移住者が必要とするサービスとしては、主に以下のものが挙げられました。

ー子供に日本語を教えるサービス(日本語学校など:都市によっては学校がある)

ー困った時の相談先、またはリスト(日本語の話せるドクターや弁護士など)

ー日本語でのカウンセリング。メンタルヘルス・LGBTQ・家庭法関連(私もこれは仕事でよく問い合わせが来ますが、近年日本人移住者の離婚が増えてきています。また日本人移住者の家庭内暴力(DV)の件数も増えているそうです。)

ー高齢者のケア (バンクーバーやトロントには日本語でケアできるシニアホームがありますが、ビクトリアのような小さなコミュニティにはありません。日本人の介護士さんも少ないです。)

また、移住者がカナダに来てどのくらいなのか、自分達や家族がどのくらいの年齢なのかによってこれらの問題は移り変わってきますね。私個人の場合は、子供達は大きいので、プレイグループのようなものは必要ありませんが、コミュニティの日系のお年寄りのケアができたらな、、、と思っています。もちろん、自分がさらに高齢になったら自分自身もケアが必要になってくるでしょう。

NAJCでは、これらの情報を元に、新移住者のための委員会を設立することになり、私もメンバーとして参加する予定です。「こんなサービスが欲しい」などというご意見があれば、ぜひメールでお知らせ下さい。

日系カナダ人協会年次総会

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先日、全国日系カナダ人協会(NAJC – National Association of Japanese Canadian)の年次総会(AGM)がビクトリアで行われました。私はビクトリアの日系文化協会(VNCS)の理事会に入っていて、去年、バンクーバーで行われた年次総会に初めて参加しました。今年はこの年次総会がビクトリアで行われることになり(毎年開催都市が移動する)、ビクトリアの年次総会の計画委員会にも入っていました。

私はいわゆる「日系人」ではありません。20年近く前に佐世保からカナダに移民しましたが、国籍上は日本人、両親も日本人です。ここでいう「日系人」というのは日系カナダ人、つまり両親または祖父母、曾祖父母が日本から移民してきた人達を指します。

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