価値感について話そう

価値感については、最初にブレネー・ブラウンのDare to Leadを読んだ時にブログに書いていますが、今回もう少し深堀りしてみたいなと思いました。

ブレネーの初期の本、Daring Greatlyでは、「アリーナに出て行くこと」の大切さが書かれています。ヴァルネラビリティを隠したり押さえ込んだりせずに、怖いけれどもそれでも勇気を出してアリーナに出て挑戦することの大切さを書いた本です。

ですが勇気を出して「アリーナに出て」行った時、アリーナでは様々なことが起こります。ヤジを飛ばしてくる聴衆、みんなに見られているという緊張感、または一緒にアリーナに出ている人達の声などで圧倒され、混乱してしまうかもしれません。そんなとき、ともすると自分の意見よりも他人の意見を優先したり、ヤジに怖じ気づいてアリーナを出て行ったりしてしまい、自分がアリーナに出て行くことに決めたそもそもの理由さえも忘れてしまうかもしれません。

そのような自分を見失ってしまうような時に、行き先を照らしてくれるランタンのような役目を果たしてくれるのがあなたの価値感(Values)です。

Oxford English Dictionaryによると、価値感の定義は:

Principles or standards of behaviour; one’s judgement of what is important in life

行動の原則や基準、人生において何が重要であるかという自分の判断

となっていますが、ブレネーはDare to Leadの本の中では、価値感をこう定義しています:

A value is a way of being or believing that we hold most important.

価値とは、私たちが最も大切にしている在り方や考え方のこと

Dare to LeadのLiving into our valuesという章では

Living into our values means that we do more than profess our values, we practice them. We walk our talk-we are clear about what we believe and hold important, and we take care that our intentions, words, thoughts, and behaviours align with these beliefs.

自分の価値観を生きるということは、自分の価値観を公言するだけでなく、それを実践することです。つまり、自分が何を信じ、何を重要視しているかを明確にし、自分の意図、言葉、思考、行動がこれらの信念に沿うように気を配るのです。

と書かれています。

それでは価値感に基づいて生きるとはどうすればいいのでしょうか?

Dare to Leadにはその3つのステップが書かれていますのでここで紹介しますね。

Step1:名付けられない価値感に基づいて生きることはできない−価値感を絞る

価値感とは、あなたの道標になる北極星のようなものです。あなたの北極星はなんですか?

ブレネーは、価値感の話をすると、職場での価値感と家庭での価値感2セット決めるべきですか、と聞かれることがあるそうですが、仕事での価値感と個人的な価値感を分けることはない、人は誰でも1セットの価値感を持っていて、それは自分の人生のすべての分野に当てはまるのだそうです。

ここから、価値感のリストのPDFがダウンロードできます(英語です)。ここでやるエクササイズは、自分にとって最も大切と思える価値感を2つ選ぶこと。

まずは、このPDFを見て自分にとって大切と思える価値感に○を付けていってみてください。初めてやる時は、きっと10も15も○を付けたくなると思いますが、それは珍しくありません。ですがこれを何度も確認して、最後の2つに絞れるまで続けて下さい。2つに絞るのはとても大変だと思いますが、ここであえて2つに絞る意味を、ブレネーはこう書いています:

Here’s why: The research participants who demonstrated the most willingness to rumble with vulnerability and practice courage tethered their behaviour to one or two values, not ten. This makes sense for a couple of reasons. First, I see it the same way that I see Jim Collins’s mandate “If you have more than three priorities, you have no priorities.” At some point, if everything on the list is important, then nothing is truly a driver for you. It’s just a gauzy list of feel-good words.

その理由は以下の通りです。研究参加者の中で、ヴァルネラビリティに挑戦し、勇気を持って行動しようとしていた人々の行動は、10の価値観ではなく、1つか2つの価値観に基づいていました。これには、ふたつの理由があります。第一に、私は、これはジム・コリンズの「3つ以上の優先事項があれば、優先事項がないのと同じである」という言葉と同じように考えています。ある時点で、リストのすべてが重要であれば何も本当の意味であなたを動かすものにはなりません。それはただの気持ちのいい言葉を並べただけのものと同じです。

ふたつ目は、ブレネーが1万人以上の人々とこの作業を行ってきた上で、このプロセスに長く付き合って、大きなリストから2つの価値感に絞ることができた時、ブレネーが自分の価値観のプロセスで出したのと同じ結論になったのだそうです。 つまり、最後に残った2つのコアな価値感は、○で囲まれた他の価値観がすべて試されるものであったというのです。

例えば、ブレネーの2つの価値は「勇気」と「信仰」だそうですが、彼女は最初「家族」を選べなかったことが残念だったそうです。でも深く掘り下げてみると、彼女にとってもっとも大切なものは家族だけど、家族に対する彼女の献身は、ブレネーの信仰と勇気によって支えられていることに気づいたというのです。

また、私たちの価値観は、私たちの心の中に結晶化しているようなものでなければない、と書かれてもいます。

最後に絞る2つの価値感は揺るぎないものでなければいけないし、「これを選ぶべき」と教わったものではなく、自分にとって選択の余地のないものでなければいけません。それは、私たちの人生における私たち自身の定義に他ならないのだ、とブレネーは書いています。価値感のリストを読んでいるうちに、これだというものを見つけたら、自己認識の深い共鳴を感じるはずです。

私にとって一番大事な価値感は、「勇気」と「自由」です。

自分の価値感が決まったら、今度はそれに添った行動をしなくてはいけませんが、それは簡単なことではありません。常に自分の価値感に添って行動ができるとき、Integrity(一貫性)がある人、と言えます。

In those hard moments, we know that we are going to pick what’s right, right now, over what is easy. Because that is integrity- choosing courage over comfort; it’s choosing what’s right over what’s fun, fast, or easy; and it’s practicing your values, not just professing them.

辛い時には、楽なことよりも、今、正しいことを選ぶことが大事だと私達は知っています。

なぜなら、それが一貫性(Integrity)でであり、Integrityとは楽しいこと、速いこと、簡単なことよりも正しいことを選ぶことです。そして、自分の価値観を公言するだけでなく、実践することです。

Step2:価値感を実行する

価値感の話をすると、ともすると実現できない夢のように捉えられてしまい、笑われたり、呆れられたりすることもあるかもしれません、何故なら、自分にとって大切な価値を実行に移せている人はごく少数だからです。多様性やSDG、サステイナビリティを謳っている企業のことを考えてみると、確かに、、、と思われる方も多いでしょう。

ブレネーも価値のひとつが、「勇気」で私と共通しています。ブレネーは、これを実行するために、たとえ誹謗中傷が続こうが、世の中でおかしいと思ったことについては声を上げるし、SNSでも積極的に自分の意見を言うのだと書いています。

価値感を実行出来ていない時、自分でもわかりますよね。ブレネーがこの章に書いていた例がよくあることだなと思ったのでシェアします。例えば、あなたの価値感が「勇気」だったり「優しさ」だったり「助けあい」だったりしたとします。そしてある日あなたの友人や家族や同僚に大きな不幸が起こったとします。そんなとき、すぐに価値感を実行して、その友人に連絡できたりすれば問題ないのですが、私達はジグザグな行動をしてしまう傾向があると言います。「今たぶん忙しいだろうから、あとで連絡しよう」とか。そしてその後は「今食事時だから、明日また連絡しよう」「たぶんご家族が集まってるだろうから、また別の時期に連絡しよう」こう思っているうちに気がついたら数週間経っていること、ありませんか?

ブレネーは、彼女のお母さんからShow up for people in pain and don’t look away(苦しんでいるのために現れ、目を背けないこと)という言葉を学んだそうですが、これは素晴らしいと思いました。日本でも、誰かに不幸があったときなど、その不幸に対して自分がヴァルネラブルに感じるのが怖くて、「今忙しいだろうから」などを言い訳にして疎遠になってしまうこと、とても多いと思います。そういうときに勇気を出して連絡できることこそが、価値感に添った行動であり、Integrityのある行動と言えると思います。

もうひとつ、この章には私も好きでマントラにしている言葉がでてきます:Choose courage over comfort. 楽なことよりも勇気を選びなさい。

またこの章にはは価値を実行するためのエクササイズがあります。最初のエクササイズで選んだ2つの価値それぞれに、以下の質問に答えて下さい。下は私の例です。

価値1:(        )

1.この価値をサポートする3つの行動は?(                  )

2.この価値にぞぐわないあなたの3つの行動は?(                  )

3.価値に沿って生きることができた時の例は?(                  )

価値1:(勇気 )

1.この価値をサポートする3つの行動は? (声をあげる、声をかける、自分の意見を言う)

2.この価値にぞぐわないあなたの3つの行動は?(自分と違う意見に声をあげない、黙っている、逃げる)

3.価値に沿って生きることができた時の例は?

(ワークショップで何をやるべきかわからなかった時、「すみません、理解できていないのでもう一度説明してください」と言えた。)

この答えも、もし良かったらシェアしてくださいね。

Step3:エンパシーと自分への優しさ:アリーナの中で最も重要な席

自分の価値感に添って生きることのステップ3は、エンパシーと自分への優しさを大切にすること。

アリーナには様々な席がありますが。そこにはシーズンチケットを持って毎回アリーナにでている私達を見に来る人達がいます。Shame(恥)は「おまえは十分じゃない」と「何様のつもり?」という2つの席のシーズンチケットを持っています。「常に(お金が、時間が、愛が、アテンションが)足りない」というScarcity(欠乏感)と「あの人の方が私よりよくできている」とか「あの人の方がもっと成功している」などど、他人と常に比べてしまうComparison(比較)もよくやってきます。しかし、アリーナのなかで最も重要な席はエンパシーと自分に対する優しさ(Self-Compassion)で、その席にフォーカスするべきだとブレネーは書いています。

あなたがアリーナに出て行く時、勇気を出して何かをやるとき、このふたつの席に座っている人を想像してみてください。そして以下の質問に答えて見て下さい。

1.あなたの価値感を知っていてそれに添った生き方をしたいと思っている事を知っている人は誰ですか?

2.この人からのサポートとはどんな形になりますか?

3.自分の価値観に添った生き方をしようという努力をしている自分をサポートするために、自分に優しい行動として   何ができますか?

4. 自分の価値観から外れた生き方をしていることを示す早期警告のサインは何ですか?

5. 自分の価値に添った生き方をしているとき、どんな感じがしますか?

6. 2つのカギとなる価値感を実践することで、フィードバックの与え方、受け取り方がどのように変わってきますか?

この章ではこの後フィードバックについても書かれているのですが、ここでは割愛します。

Value Gap

ここで、価値感について、ブレネーの初期の本、Daring GreatlyででてきたValue Gapの話を少ししたいと思います。Value Gapとは、自分が理想とする価値と現実とのギャップのこと。

例えば:

理想とする価値:正直さと誠実

現実の価値感:理由をつけて正当化する、なり行きまかせ

ここで出てくる例は、母親はつねに子ども達に正直で誠実でいることは大切と教えていて、盗みやカンニングは絶対にダメだと言い聞かせているのに、ある日スーパーで払い損ねたものが会った時に「私のせいじゃないわ。どうせお店は儲かってるんだから1つくらい良いでしょ」という態度を取ったという例です。

他にもこの章には理想の価値感と現実とのギャップの例がでていますが、よくあるのは、例えば子どもには電子機器を持たせない、もしくは時間を厳しく制限しているのに、自分は1日中スマホが手放せないなど。部下には厳しいのに自分には甘い上司など。例はいくらでもある気がします。

理想と現実のギャップがあると、何がいけないのでしょうか?

上でも少しでてきましたが、Integrityとは一貫性があるという意味ですが、普段から環境に優しく多様性を唄っている企業が実はプラスチックを使いまくって、男性ばかり雇っていたら、誰もその会社を信用しなくなりますよね。そんな会社に勤めている社員も、「もうどうでもいい」と関わる意欲(エンゲージメント)を失わせてしまうのですね。これを、Disengagementと言います。Disengagementについては、少し前にClubhouseで話しました。

Disengagementが起こると、誰も真面目に仕事しないし、学校でも勉強なんてどうでも良くなりますし、社会を良くしようという意欲も無くなり、政治にも興味がなくなり、あきらめ感が募り、他人に不寛容になります。今の日本って、こういうところすごくありませんか?

だからそれぞれが自分にとって最も大事な価値感を知っておくことって、実はすごく大切だと思います。ですがさらに大切なのは、その価値感をきちんと実行にうつすことです。自分の価値と一貫性のある行動をすること=Integrityを持つことですが、これは、言うが易しで、本当に難しいです。飲み会で、みんなが外国人差別のジョークを話しているときに「やめなよ」と言えますか?どうしても納得できない会社の方針に、声をあげることができますか? いじめられている友達に、声をかけることができますか?

価値感を実行することは簡単ではありませんが、これを実行できない人が増えると、社会全体のモラルが低下し、Disengagementに陥り、誰も幸せになれない、と私は思います。難しいですが、一緒に練習して、少しずつ実行していきませんか?

価値感について、Clubhouseでお話します。

日本時間2021年10月30日(土)22:30〜 (北米時間10月30日6:30AM PDT)

一応、録音する予定です。もしかしたらポッドキャストで配信するかもしれません。

価値感についてのコメント、質問などをぜひお寄せ下さい。