消えたタカタガーデン

タカタガーデン

カナダに住むようになって初めて知ったことの一つに、戦時中の日系カナダ人の強制収容(Internment) があります。

第二次世界大戦時、ビクトリアにはすでに多くの日系人が住んでいました。ロスベイ墓地にも152の日系パイオニアのお墓が残っています。

これらの日系人は二世以降の人達はカナダで産まれ、英語を母国語とし、「日系」ではあるものの、「カナダ人」として生活していました。

1907年、エスクァイマルトにあるゴージ・パークではタカタ一家がカナダで初めての日本庭園を作り、そこでティーハウスを経営していました。タカタガーデンの日本庭園は、現在もあるブッチャートガーデンの日本庭園をデザインしたキシダ・イサブロウ氏の手によるもので、多くの植木を日本から船便で取り寄せていました。ティーハウスではイギリス風のサンドイッチや紅茶がだされ、ダンスフロアもありました。訪れた人々はピクニックをしたり、日本庭園や池を愛でたり、商品が当たるゲームをしたり、ゴージ水路で泳いだり、遊覧船に乗ったりと、当時としては大人気のエンターテインメントだったそうです。

タカタガーデンのジャパニーズティーハウス。見た目は日本風だがメニューは英国風だった。

しかし1942年、第二次世界大戦時、真珠湾攻撃の後、あらゆる日系の祖先を持つ者は「敵国」の国民だとされ、BC州に住んでいた日系人は全て強制的にBC州以東に移動させられました。許されていた荷物は1人1個。ほぼ全ての個人的な所有物、財産を残したまま、ビクトリアの日系人たちは船に乗ってバンクーバー島を去りました。この強制収容にかかった費用には、日系人の残していった車や船その他の財産を売却した売り上げが充てられました。最終的に強制収容された日系人の数は2万2千人に上りました。

ディロン・タカタさんはタカタガーデンの創始者ケンスケ・タカタのひ孫にあたり、現在ビクトリア在住です。ディロンさんによると、強制収容後、タカタ一家はバンクーバーのヘイスティングに移動され、その後スローカンにある収容所に送られたとか。ビクトリアから強制移動させられた日系人はだれも戦後ビクトリアに戻ることはありませんでした。

オーナーが居なくなったあとのタカタガーデンでは、盗難や破壊行為が相次ぎ、すっかり廃れてしまい、跡形もなくなってしまいました。

現在のエスクァイマルト・ゴージ公園には、小さな日本庭園があります。これはエスクァイマルト市がタカタガーデンの歴史を記念して作ったものです。

私はビクトリア日系文化協会(VNCS)の理事の1人ですが、約1年半前、エスクァイマルト市民のある男性から、協会あてにメールが届きました。

彼によると、エスクァイマルト市にビクトリア首都地域(CRD)から17ミリオンドルのマクローリンファンドという資金が提供されることになっており、そのうちの7ミリオンドルは公園施設・アメニティの改善に使われることになっているとのこと。彼は、その資金を利用して、ゴージ公園にあるタカタガーデンの側に、かつてあったタカタティーハウスを記念する建物を作ることを提案すべきだ、と言ってきました。

その後VNCSではエスクァイマルト市にこのアイデアを提案し、ビクトリア大学の「不正義の風景(Landscapes of Injustice)プログラム」ともミーティングを重ね、日本式茶屋を再建するためのキャンペーンを行ってきました。エスクァイマルト市は数多くの市民からのアイデアをまとめ、VNCSが提案したアイデアを取り込んだ多目的施設をゴージ公園に建設するという案が最終選考に残りました。

ここで説明しておきたいのですが、昔ながらの「日本式建築の日本茶屋」という案は最終選考には残りませんでした。日本風の建物を再建したいという声は多かったのですが、エスクァイマルト市としては、市民みんなに利用してもらう施設を優先するということで、現在は「多目的施設をゴージ公園に造る」というところまで進んでいます。

現在の状況ですが、エスクァイマルト市は9月11日と9月19日にゴージ公園の多目的施設(とそれ以外のサックスポイントやドッグパークなどのプロジェクト)のデザインに関して市民の意見を聞く情報セッションを開催しました。

現在の時点でゴージ公園の多目的施設のデザインはコンセプト1そしてコンセプト2という二つのデザインがあります。これがコンセプト1です。

現代的な建物ですが、ところどころにモダンな日本的デザイン(縁側や格子をイメージしたデザイン)が取り入れられています。

情報セッションではそれぞれが好きな方のコンセプト画にシールを貼り、様々な追加の意見も書き込まれていました。

コンセプト2は全く日本式デザインが取り込まれていないので、どちらかといえば絶対にコンセプト1のほうが良いのですが、それでももっと日本式要素、例えば障子や鎖樋などを取り入れては、というアイデアが出ていました。

直接の情報セッションに行けなかった方は、オンラインでまだ意見を募集していますので、ぜひここをクリックして、コンセプト1に投票してください。(英語です)コンセプト1を選んだあとはコメントを追加することもできますので、あなたの意見を書いて下さい。ゴージ公園に関するページは最初の1ページだけで、それ以降のページは他のプロジェクトに関する質問です。かかる時間は5分程度です。締め切りは9月29日ですので、お早めに!

9月11日の情報セッションでは、この多目的施設、特にコンセプト1に賛成する人を多く見ましたが、中には多目的施設自体の建設に反対するという人たちもいました。長年ゴージ公園の近くに住んできた高齢の市民は、新しい施設を造ると人が増えるのでうるさくなるので反対だとのことでした。。

反対意見もあるので、ぜひ、オンラインでコンセプト1に投票して下さい。一度コンセプト1で決定すればデザインなどの詳細に関してはフィードバックを与える機会はまたあるのでは、と思います。

また、タカタガーデンの歴史について詳しく知りたい方は、10月2日にビクトリア大学が開催するイベントで、タカタガーデンと日系人強制収容の歴史について学べます。場所はダウンタウンのHermann’s Jazz Clubで参加費は無料ですが$2の寄付を推奨されています。私も行ってみる予定です。イベントの詳細はこちらです。

タカタガーデンを記念した多目的施設の建設を実現するため、みなさんのご協力をお願いします。

タカタガーデンにあるVNCS桜の木寄付のプラーク

追記:日系人のカナダでの歴史、タカタガーデンの詳細そして強制収容の様子などが詳しく描かれた本「希望の国カナダへ。。。夢に懸け、海を渡った移民たち」という本(著者 Ann Lee & Gordon Switzer)の翻訳プロジェクトに関わりました。日本語訳書はすでに発行されていますので興味のある方はお知らせ下さい。