疎外感を感じている人へ

ここ最近、カナダで疎外感を感じている、という人に何度か出会った。慣れない外国に来て、母国語でない言語を話して生活していく大変さは私にもよくわかる。カナダに来たばかりの頃は、大人数での会話に入った時、英語の聞き取りができず「電池切れ」状態になったこともよくあった。

ある人は、カナダで語学学校に通っているけど友達ができない、と言っていた。詳しい話をそれ以上聞かなかったので具体的にどうして友達ができないのかわからなかったけど、日本に帰りたい、と言っていた。

昨日たまたま話した日本人の方は、カナダに引っ越してきたばかりで、「カナダに引っ越すというとみんなからうらやましがられた」と仰っていた。海外に留学、ワーホリ、移住と聞くと日本の人達からうらやましいと思われることが多いようだけど、実際には楽しいことばかりではないと思う。

カナダに限らず、外国にやってきて疎外感を感じる人に対して、万人に効く解決策というものはないと思う。みんなそれぞれの事情があるから。

でもカナダに20年以上住んでみて、また留学エージェントとして数多くの日本人留学生と関わってきて、疎外感を感じる人の傾向というのは、なんとなくではあるがつかめた気がする。

ひとつは、バウンダリーがないこと。バウンダリーとは英語でBoundaryだが境界線や限度といった意味。このブログで何度も書いているブレネー・ブラウンの本に良く出てくるコンセプトだ。あくまで私自身の意見だけど、日本人はバウンダリーが希薄な人が多い気がする。バウンダリーのコンセプトは、簡単にいうと、「何がダメで、何がOKなのか」

例えば、翌日できる、する必要のない残業を頼まれてそのまま引き受けてしまう。バウンダリーが無い人だと「定時なので帰ります」もしくは「それは明日やります」が言えないので残業してしまい、モヤモヤする。

または自分と他人のプライバシーの境界があいまいな人が「子供はいつつくるの?何人つくるの?」など余計なお世話な質問をしてしまう。

同僚に本来は自分の仕事でないことを押しつけられた時 “That’s not my job”が言えないため、モヤモヤする。クラスメイトと飲みに行ったら、その子がナンパされた男の子と帰ってしまい自分は1人取り残され、夜遅く帰宅することになりモヤモヤする。これらはすべて ”That’s not OK” が言えないため起こる。日本人は怒るのが苦手ということもあると思うが、自分にとって「何がOKで何がダメなのか」の境界引きがきちんとされていないと、モヤモヤし、人から見放されているような気になる。

ブレネーの言葉で大好きで覚えている言葉の一つに

“Choose discomfort over resentment”というのがある。

「鬱積した憤りよりも、(一時の)不快感を選べ」ということ。

「それはダメ、That’s not OK」と言うことが苦手で、不快感を感じる人は多いと思うが、それを言わないがために自分が不当な扱いを受けているような気になり、その後モヤモヤが続く。じゃあ最初に一瞬気まずくても「できません」「それは無理です」と言ってしまえば、のちのモヤモヤを免れることができるのだ。

ふたつめは、自分を確立して、他人に過大な期待をしないこと。世間の人達が自分をハッピーにしてくれると期待するのは大きな甘えだと思う。自分を幸せにできるのは自分自身だけ。友達を作りたいと思ったら、自分から声をかけることは大事だけど、必ずしも声をかける全ての人が自分を好きになってくれると期待してはいけない。人に好かれたい、というのは人間の性だと思うけど、私は年を取って、全ての人に好かれなくても良いんだと気が付いてからは本当に楽になった。

身近な人は知っていることだが、私は1年程前から副業のバイトを始めた。その職場では私が最高齢で、一緒に働いている子達は10代後半から20代。自分の子供よりも年下の子達もいる。

新しい環境に入ってみて、自分でも最初驚いたのが、いかに自分が無意識のうちに彼女達に好かれようと振る舞っていたかだ。普通の若い子達は44歳のオバサンには興味がない。なので、無意識のうちにこちらからその子について色々質問したり、ジョークに大げさに笑ったり、特別親切にしている自分に気が付いてはっとしたことがある。こういうのを英語でsucking up (おべっかを使うというような意味)というが、40代の私が19歳の子に好かれようとしている事に気が付いて、馬鹿馬鹿しくなって止めた。もちろん職場で無愛想にしているわけではなく、みんなとは仲良く親切に接しているが、できるだけ素の自分でいるように勤めている。そうすると、意外なことに、相談を持ちかけてくる子や、色々質問してくる子が増えてきたのだ。

人に好かれたいと思うのは人間の性だと書いたけど、誰かに、何かに属したいと感じるのもそうで、このあたりはブレネー・ブラウンのBraving the Wildernessの本に詳しく書かれている。ちょっとコンセプトが難しい本かも知れないけど、私のレビューはここ

バウンダリーを持って人にNOと言うこと、そして人に過剰な期待を寄せないこと、というと、冷たいと思う人もいるかもしれない。私も昔はそう思っていた。でも、これらは自分を大事にして、自分を愛しているからこそできることだ。自分自身に正直でいることが、自分を愛すること。私は万人に好かれるタイプの人間ではない。ちょっと変なところも、欠点も沢山ある。私にとってこれはOKだけどこれはダメということもはっきりしている。それでもそれが私なのだ、と正直に生きていると、そんなあなたが好き、と言ってくれる人だけが集まってくる。