カナダに住む日本人移住者へのサービス

私が住んでいるビクトリアにはビクトリア日系文化協会(Victoria Nikkei Cultural Society-VNCS)という団体があり、私はそこで理事の1人としてボランティアしていますが、先週末、VNCSがメンバーとして加入している国レベルの団体、日系カナダ人協会(National Association of Japanese Canadians-NAJC)のAGMとカンファレンスにビクトリア代表として出席するため、オタワまで行ってきました。 2015年にはこのイベントをビクトリアで開催し、その時のことはこちらのブログに詳しく書いています

2011年の統計によれば、カナダに住んでいる日系人(日本人、日系カナダ人を含め、バックグラウンドが日本だと言う人)は10万人程度いるのだそうで、そのうち移民は2万5千人、子供が3万人で、日本からやってきたいわゆる「新移住者」は5万5千人、全体の半分以上を占めていますが、NAJCの名前を聞いたことがある人は少ないかも知れません。NAJCはこれまでは主に「日系カナダ人」をサポートする団体として知られています。

カナダには19世紀の終わりごろから日本からの移民が増え、「一世」と呼ばれていますが、これらの人々の多くは、カナダで出稼ぎをして日本に帰るのではなく、カナダ人としてカナダに骨を埋めるためやって来た人達です。第二次世界大戦中、真珠湾攻撃の前後から、日本人は敵国の人種と見なされ、1942年、ブリティッシュ・コロンビア州西海岸に住んでいた日系人は、家を退去するよう命令され、BC州内部の小さなコミュニティに強制的に移動させられました。家や車、漁船などの資産はそのまま置いていくように指示され、殆どが没収され、強制収容そのものの資金を作るために所有者の許可なく売り払われました。

このあたりの歴史は日本の学校でも学ばないので私もカナダに来るまで殆ど知らなかったことです。(詳しい内容は日系博物館のサイトをどうぞ。)

1998年にカナダに移住してきて以来、日本人の友達は少しづつ増えて行き、ビクトリアにあるVNCSで日本の文化を伝える活動をしていることを知り、会員になり、数年前からは理事として参加しています。日系文化協会(VNCS)の会員の殆どは日系カナダ人またはカナダ人で、私のような日本人移民は三割程度でしょうか。会員になるには日本人や日系人でなければいけないという決まりもないので、日本の文化に興味のある人なら誰でも参加できます。

NAJCでは、日系カナダ人の高齢化が進み、その人口も減ってくると共にそれに反比例する形で日本からの移住者が増えてくることを鑑みて、移住者へのサービスを積極的に行うことを現在思索中です。

オタワでのカンファレンスでは、新移住者をテーマにしたパネルディスカッションがあり、カールトン大学助教授の朝倉健太さんと主婦のニワノマリコさんからそれぞれお話を伺いました。朝倉さんからは、LGBTQの若者が日本の移住者の家庭でどのように感じているかなど非常に興味深いお話を伺うことができました。ニワノさんは、お子さんの居る主婦という立場から、カナダに来たばかりの頃、日本語でなかなか情報が得られなかったこと、今後の子供達の日本語力に関してなどご自身の体験をお話いただきました。

その後、日本語・英語両方にて、「NAJCが移住者に関して何ができるのか?」というテーマでのディスカッションも行われました。私は英語のグループにたまたま入りましたが、日本人移住者と日系カナダ人の間に溝を感じる人が多いことや、移住者の立場から、あったら嬉しいサービスなどについて様々なディスカッションが繰り広げられました。

私自身は移住者ですがNAJCやVNCSのような日系団体に積極的に関わっていますが、日本人移住者は日本語が通じる日本人のグループ(お母さんのグループや、趣味のグループなど)で集まり、特に日系人と交わる必要性を感じない方も多いと思います。全体的な感情としては、日系カナダ人のみなさんやNAJCの様な団体は、日本人移住者のみなさんと交流したい、サービスを提供したいと思っている人が大半です。

あくまで私個人の意見ですが、私はこのディスカッションでは「日本人移住者は日系人と交流する必要性を感じていないので、移住者にサービスを提供したり交流したければ、移住者がそうすることのメリットまたはバリュー(価値)を提供しなければいけない」と伝えました。

移住者のパネルディスカッションでお話下さったマリコさんは、「来たばっかりのころは英語ができなかったので、日本語での生活サポートがあると嬉しい」と仰っていました。

ただ、英語ができない人への日本語でのサポートは、オンラインはもちろん、オフラインでも、大きな都市ではすでに提供されています。バンクーバーには隣組という日本人のサポート団体がありますし、トロントにはジャパニーズ・ソーシャル・サービスがあり、カウンセリングや情報提供を行っています。

ビクトリアにはソーシャルサービスの団体はありませんが、クチコミなどで様々な情報を得ることができます。VNCSでもメールを頂ければできる限りのお手伝いはしています。

日本人移住者が必要とするサービスとしては、主に以下のものが挙げられました。

ー子供に日本語を教えるサービス(日本語学校など:都市によっては学校がある)

ー困った時の相談先、またはリスト(日本語の話せるドクターや弁護士など)

ー日本語でのカウンセリング。メンタルヘルス・LGBTQ・家庭法関連(私もこれは仕事でよく問い合わせが来ますが、近年日本人移住者の離婚が増えてきています。また日本人移住者の家庭内暴力(DV)の件数も増えているそうです。)

ー高齢者のケア (バンクーバーやトロントには日本語でケアできるシニアホームがありますが、ビクトリアのような小さなコミュニティにはありません。日本人の介護士さんも少ないです。)

また、移住者がカナダに来てどのくらいなのか、自分達や家族がどのくらいの年齢なのかによってこれらの問題は移り変わってきますね。私個人の場合は、子供達は大きいので、プレイグループのようなものは必要ありませんが、コミュニティの日系のお年寄りのケアができたらな、、、と思っています。もちろん、自分がさらに高齢になったら自分自身もケアが必要になってくるでしょう。

NAJCでは、これらの情報を元に、新移住者のための委員会を設立することになり、私もメンバーとして参加する予定です。「こんなサービスが欲しい」などというご意見があれば、ぜひメールでお知らせ下さい。

コミュニティの価値

昨日は、ビクトリアの日系団体が集まった餅つき会・新年会でした。私はビクトリア日系文化協会という団体に属していますが、この他にも日本友の会、ビクトリアヘリテッジ日本語学校という団体があり、三つの団体で共同で毎年行っているお餅つき会で、夕食はみんなで持ち寄るポットラック形式です。

バンクーバーからは岡井総領事ご夫妻もお越しいただき、お二人ともお着物で華やかさを添えて下さいました。

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日本人のカナダでの歴史を書いたGateway to Promise翻訳プロジェクト

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カナダにおける日本人、そして日系人に関してはこのサイトでも過去に何度か触れています。私自身は1998年に移民してきたいわゆる「新移住者」ですが、私がここカナダで差別されることなく安定した仕事ができるのは、日本から1880年代に移住してきた日本人のみなさんが基礎を作って下さったからだと思っています。

カナダにおける日本人、そして日系人の歴史というものは、あまり日本では知られていないようです。学校で学んだ記憶もありませんし、戦時中に「敵国人である」と見なされ強制的に収容(Internment)された日系カナダ人のことは、恥ずかしながらつい数年前に知ったという次第です。

カナダに最初に移住した日本人は、長崎県口之津(私も長崎出身ですがこれは知りませんでした)出身の永野萬蔵氏、ということに長いことなっていたのですが、ビクトリア在住の歴史家で著者でもあるゴードンとアン・リー夫妻は独自のリサーチやインタビューを重ね、2013年にGateway to Promite : Canada’s First Japanese Communityという本を出版されました。ゴードンとアン・リーとは私もこの数年来ビクトリア日系協会を通じて様々なお話を聞かせてもらっていたのですが、この本には、ビクトリアの日系コミュニティがどのようにして創られていったか、当時の人々の生活の様子、ビクトリアで客死した新渡戸稲造氏についてなどが380ページにわたり詳細に記録されています。

この本によると、記録に残っている限り、BC州に足を踏み入れた最初の日本人は1834年に遭難した船の乗組員ということになっています。ただこれはFort Langleyの記録で、ビクトリアではありません。それではビクトリアに最初にやってきたのは一体誰なのでしょう?1885年には、Government Streetにある日本雑貨店(この店舗は今でも残っています)で日本人を雇っていたCharles Gabrielのビクトリアでの裁判の記録が残っており、この時点でビクトリアにはすでに日系人のコミュニティがあったことの証拠になっています。

Gateway To Promise 日本語翻訳チーム
撮影:Tom Saunders氏

そして今回、作家の宮松サンダース敬子さんのお声がけで、この本を日本語に訳すというプロジェクトが発足し、ビクトリアはもちろん、バンクーバー、デンマン島、トロント、日本そしてフィリピンから14名の翻訳者が集まりました。そして先日初めての顔合わせ会が行われました。

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宮松邸にて簡単な挨拶、ランチのあと、Ross  Bay Cemetary内の日本人墓地にゴードンとアン・リー夫妻に案内していただきました。ここはビクトリア日系協会で毎年お盆をやっているところでもあります。この墓地の話もGateway to Promiseに登場します。

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墓地ツアーのあとは集まった翻訳者で振り分け作業。約400ページの本を14人で分けるということになりました。様々なバックグラウンドの翻訳者が集まり、みなさんお仕事や子育てでお忙しい中、この本を日本語に翻訳することは歴史的にも大切なことだと信じている方ばかりだと思っています。また今回のチームの中にはプロの翻訳者の方もいらっしゃいますのでとても頼もしく、色々勉強させていただける貴重な機会になりそうです。

このGateway to Promise日本語翻訳プロジェクトはビクトリア日系協会からの補助金を受けており、その大部分は各翻訳者が使用する原本の購入、ミーティングへの交通費などに使われています。現在、印刷代その他かかってくる経費をカバーするためにさらなる補助金または寄付を募っております。ご興味のある方、(発行は来年以降になると思いますが)翻訳本をプレオーダーしたい方などいらっしゃいましたらぜひご連絡下さい。私個人にご送金いただいてもかまいません。責任を持って宮松さんにお渡しします。

翻訳された本はカナダ国内の日本人、日系人はもちろん、日本でも広めたいと思っております。どうぞご協力をお願いいたします。

日系カナダ人協会年次総会

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先日、全国日系カナダ人協会(NAJC – National Association of Japanese Canadian)の年次総会(AGM)がビクトリアで行われました。私はビクトリアの日系文化協会(VNCS)の理事会に入っていて、去年、バンクーバーで行われた年次総会に初めて参加しました。今年はこの年次総会がビクトリアで行われることになり(毎年開催都市が移動する)、ビクトリアの年次総会の計画委員会にも入っていました。

私はいわゆる「日系人」ではありません。20年近く前に佐世保からカナダに移民しましたが、国籍上は日本人、両親も日本人です。ここでいう「日系人」というのは日系カナダ人、つまり両親または祖父母、曾祖父母が日本から移民してきた人達を指します。

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