騎士団長殺し[1000冊紹介する:008]


13歳の時に「ノルウェイの森」を読んで以来ずっと村上春樹の本を読み続けています。いわゆる「ハルキスト」ではありませんが、日本の作家で毎回新作が出るたびに読み続けるのは彼だけです。

いつもは新作がでるとすぐにアマゾンで購入してカナダまで取り寄せるのですが、今回に限りタイミングを逃し、そのうち読まねば、と思っていたらすでに3ヶ月以上経っていました。幸いビクトリア在住のお友達が親切にも貸してくれたので、一気に読みました。
「騎士団長殺し」
読む前はタイトルの意味もよくわからなかったのですが、読んでみるとこのタイトルも各部につけられたサブタイトル「顕れるイデア編」「遷ろうメタファー編」も、読んでみるとまさにそのままなんだけど、渋すぎる。良い!

(以下ネタバレありますのでご注意)

SNSやGoodreadsのレビューにも書きましたが、これは典型的な春樹ワールドでした。主人公は肖像画を描くことを生業にする画家で、離婚のため、友人の父親である、とある有名画家の家に一時的に身を寄せるところから話は始まります。妻に去られ、一人で静かに暮らす様子は世界観としては「ねじまき鳥クロニクル」、また後半の冒険部分では私が大好きな「ダンス・ダンス・ダンス」や「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(この二つは私の中で村上作品のトップ2です)を彷彿とさせます。

春樹ワールドにおなじみの「美少女」「井戸」「恐ろしくチャーミングで裕福な男」「物が無くなる・人が消える」「壁抜け」「孤独」「音楽」「料理」「歴史」などがふんだんに盛り込まれていて読み進めながら「キタ−!」とワクワクしながら一気に読んでしまいました。

アンチ春樹の人はこういうところが嫌いなんでしょうけど、、、私は逆にそれが彼のスタイルだと思っているので、逆にないと面白くない。登場人物の会話も、「誰も『あるいは』とか普段の会話で使わないっしょ」と、ツッコミながら読むのが逆に面白いという。

ストーリーの流れとしては、キャラクターや設定が変わっているだけで、著者が意図したことなのかどうかはわかりませんが結局は過去作品と同じような気がしました。平和な生活→妻に去られる→一人→不思議なものを発見して話が展開。。。という。

有名画家の家に移り住んだある日、主人公は屋根裏部屋をみつけ、そこに隠されていた「騎士団長殺し」という絵を発見して、そこからどんどんと不思議な話が始まっていきます。

今までと全く違う村上作品を期待していた人や、過去2作「女のいない男達」や「色彩を持たない多崎つくる」のような本を期待していた人はがっかりするかもしれませんが、私は、「これっていつものパターンだよね」と思いつつも、そこまで気になりませんでした。思うんですが、世間の人って結局同じものの繰り返しが好きなんじゃないかなと思うんですよね。だって、Wes Andersonの映画とか、つまりは決まったスタイルを保った同じような映画ですし。

ただパターンが過去の作品に似てくるとつい先を予測してしまうというのは困りました。「この人絶対怪しい」とか「この人死にそうだな。。。」とか色々考えてしまいましたね。それも読書の楽しみのひとつなのかもしれませんが。

もちろん不思議なことも沢山起こります。起こるに決まってます。この「不思議系」で村上作品の好き嫌いは分かれるようですが。。。

後半のクライマックスのシーンでは、「ハードボイルド・ワンダーランド」の「やみくろ」を思い出しました。(しかしあの作品は今でも傑作だと思う)

最後のオチが個人的にはうーん、もう一踏ん張り欲しかった、という感じでしたが、これってもしかして「ねじまき鳥」みたいに後で3部が出たりするんでしょうかね?第2部の最後は(第2部終わり)としか書かれてないし。回収されない伏線や説明されなかった部分がいくつかあって、そのあたりが気になりましたが、全体としては楽しめたのでよしとします。読んだ方、ぜひコメントで感想シェアして下さい。