どうせなら、楽しく生きよう


dousenara
Twitterで知り合って、この数年仲良くさせていただいている渡辺由佳里さんはライターとしても、女性としても尊敬している大先輩です。本が大好きで「洋書ファンクラブ」というサイトを運営するかたわら、「ジャンル別 洋書ベスト500」「ゆるく、自由に、そして有意義に──ストレスフリー•ツイッター術」などの本も出版していらっしゃいます。

そんな由佳里さんの最新刊が、「どうせなら、楽しく生きよう」という本。最初は電子書籍で発行され、私も読ませていただいた際、「!!!」と、言葉にならない感動を感じたのを覚えています。同じように感動したのは私だけではないようで、このたび、紙媒体でも発行されました。

マサチューセッツ州ボストン在住の由佳里さんのツイートは、毎日のジョギングで見かけるキノコや鹿の写真、現在読んでいる洋書の感想、ご主人と世界中を旅する様子、そして時にはアメリカの社会、政治問題に関するコメントなど幅広いのですが、感情的になることがなく、みんなに公平でいつも明るい由佳里さんに、私は嫉妬ではないものの、「幸せで恵まれた生活をされているようで、良いなあ」という漠然としたあこがれを抱いていました。ねたみや嫉妬ではなく、かといって「恵まれている人は良いわね」という見下した感情でもありませんでしたが、全体的に「いつも明るい、ハッピーな方」というイメージがありました。私も将来は由佳里さんのようになりたいなあ、なんて。

そんな彼女の、「恵まれた人」というイメージが、本書を読んで一変しました。ぜひみなさんに読んで欲しい本なので詳しい内容は書きませんが、家族との葛藤や、メンタルヘルスの面でも非常に大変な経験をされたというのです。

「出世していく夫へのわだかまり」

「真っ黒な海藻がいくつも絡みついてくるような感覚」

「私は、多くの人びとにとって『常識はずれ』のダメ人間でした。」

これらは由佳里さんの体験談のごく一部で、本を読んでいただければ詳しい内容は理解していただけると思いますが、本当に大変な苦労をされたようです。でも、今では「生きるのが楽しい」という由佳里さん。 一体、何が変わったのでしょうか。由佳里さんなりのアドバイスが、15章に渡って紹介されています。 ここで、私の心に特に響いた章をご紹介します。

常識を押しつける人から離れる
私も、由佳里さんのように日本を離れて海外に住んでいる人間ですが、「もう日本には戻れないなあ」と思うことの理由のひとつが、「常識」を押しつける人が少なくないということもあり、この章では多いに同意させていただきました。

助けてくれるのは「常識」にこだわらない人たち

これまでに四つの異なる国に住み、四十カ国以上を訪れましたが、ひとつだけ断言できることがあります。 どこの誰にでも通用する「常識」なんか存在しない、ということです。

このブログでもたびたび紹介しているクリス・ギレボーの最初の本も「常識からはみ出す生き方」というタイトルでしたが、他人の常識に従って生きる理由なんて、どこにもないんですよね。

「勝ち負け」へのこだわりを捨てる
この章では、発売直後から北米で非常に話題になった、「タイガー・マザー」ことエイミー・チュアの本にも触れられています。チュアは「一番になること」を「成功」とみなしているようで、娘たちが学校の成績でA以外の成績をとることを「許さない」と書いて、話題になりました。この章では、由佳里さんは「勝つことにとらわれすぎると不幸になる」と、注意を促しています。

前向きに諦める
この章では母親の目線から、娘さんの体験にも触れられています。特に、娘さんの水泳クラブに関する葛藤は、子を持つ親としては、思わず涙せずには読めませんでした。追い詰められていても、「水泳をやめる」という選択肢があるとは思わなかった、と振り返る娘さんの体験談を読んで、自分の子供だけでなく、全ての子供たちがこのような不安を持つことなく、自分から夢中になれることを見つけて欲しいと願わずにはいられません。

嵐が去るのを待つ
の章でも、思わず胸がいっぱいになってしまいました。どんなにがんばっても、生きるのがつらくて仕方がない時期というのは誰にでもあるようです。かくいう私も、この数年間の間だけでも、本当に辛くて仕方がないという時期がありました。 チャーチル首相の言葉に、「If you’re going through hell, keep going」というものがあります。数年前、父が亡くなってとても辛い思いをして居た頃、ある友人がこの言葉を思い出させてくれました。地獄の中を進んでいる時は、立ち止まらずにひたすら前に進むこと。そうすればいつか必ず通り抜けることができます。暗くて孤独なトンネルの中を、どちらに向かっているのかもわからないような状態で歩いている時でも、ひたすら足を一歩ずつ前に出していけば、いつかかならずトンネルの向こうに光が見えてきます。

本書の取材で知り合った人たちと私の共通点は、「どんなにつらくても、死にたくなっても、生きるのをやめなかった」ということです。生きるのをやめなかったから、後で「ああ、幸せだ」と思えるチャンスに出会うことができたのです。

この他の章にも、宇宙飛行士のアラン・ビーンさんのお話や、糸井重里さん、ご主人のデイヴィッドさんのお話など盛りだくさんです。

そして、やはり涙なしには読めなかったのがつらすぎる人間関係を切るの章に掲載されている、由佳里さんのお手紙です。身近な人とわかりあえないことほど辛いことはないと思いますが、それでも、最後は自分を選んだ由佳里さんに、心から拍手を送りたいと思います。

この本は、いわゆる、「自己啓発本」ではありません。「誰でもできる」「簡単なステップ」が紹介されているわけではないですし、この本を読んだからといって奇跡的に成功したり、幸せになれるという保証はありません。でも、あえて全ての人に読んでもらいたい本だと私は思っています。なぜなら、由佳里さんの体験談は、私たちに生きる勇気を与えてくれるからです。 今、生きるのがつらいひと、暗闇と戦っているひとこそ、ぜひ手にとってみてください。