あなただけの北極星をみつけよう

North Star - photo credit Tony Fischer Photography

(Photo credit: Tony Fischer Photography)
私は本を読むのは大好きですが、英語の本を読むのには未だにものすごく時間がかかってしまいます。日本語の本だと1日2日で読んでしまえるのに、英語の本だと下手すると一ヶ月くらいかかることもざらです。また、内容にイマイチ入りこめないと、途中で辞めてしまう事もあります。

この一ヶ月ほど、そんな風に放ったらかしだった本を再度読んでいました。

タイトルはFinding Your Own North Star. あなただけの北極星を見つけるというタイトルです。

この本は、3年ほど前に、当時の私のコーチから勧められました。

コーチというのは個人的向上のために様々なツールを使って目標達成の手助けをしてくれる人ですが、彼女とは3年ほど前にとあるカンファレンスで偶然隣に座ったのをきっかけに知り合いました。トロントでのカンファレンスだったのですが、はるばるアメリカからやってきた彼女とは何故か話もあい、トントン拍子で私のコーチになり、それから3ヶ月ほど、彼女にはスカイプで定期的にコーチングしてもらいました。

当時の私は、前の夫と別居した直後だったということもあり、今から考えると信じられない事ですが、自分の人生に自信がなく、一体この先どうやって生きて行けば良いのだろうかと不安でいっぱいでした。当時おつきあいしていた人ともうまく行っていなかったし、仕事の方向性も見失っていたのです。深刻なレベルではありませんでしたが、軽いうつのような状態でもありました。

そのコーチからは、セッションのたびにいくつかお勧めの本を紹介してもらいましたが、Finding Your Own North Starもその中の一冊です。この本では、北極星を「あなたが進むべき人生、幸せな人生への可能性」への道しるべと考えています。その北極星へたどりつくにはどうすればいいのか?というのがこの本のテーマです。

まずこの本の冒頭で学ぶ事は、たいていの人は誰しもSocial SelfとEssential Selfの2人の自分を持っているということです。

Essential Self(本質的自身とでも訳せるでしょうか)は、あなたを北極星へ導く高機能のコンパスをもっています。そしてSocial Self(社会的自身)というのは理性と言い換えても良いかも知れませんが、実際にそのゴールへとあなたを導くスキルを持っているものです。例を挙げると、あなたのエッセンシャル・セルフが医者になりたいと切望するとき、実際に医科大学を選択して申し込むのがソーシャル・セルフであり、あなたのエッセンシャル・セルフが大自然での自由を切望するとき、正しいバックパッキング用具を選ぶのがソーシャル・セルフといえます。

このシステムは、エッセンシャル・セルフとソーシャル・セルフがお互いに連絡を取り合って一緒に働いてくれさえいれば素晴らしく機能します。しかし、大部分の人達は、このような、自分自身の中に既に持っているナビ機能を使わずに、他人に自分の人生の進路を決めさせている人がほとんどなのです。

エッセンシャル・セルフは誰もが持って産まれてくるもので、あなたの欲望、好み、感情的反応など、これらがひとつになってあなたのアイデンティティを形成します。これはあなたの個性のエッセンスであり、あなたの「北極星」に辿り着くのに絶対に必要だものです。ソーシャル・セルフは、人間は赤ちゃんの頃から他人に頼らなければ生きて行けないという原理のもとに、周りの人を喜ばせようとするあなた自身の一部ですが、こちらの自身だけが発達してしまい、他人の価値観にあわせて生きてしまう人がとても多いのだそうです

著者のマーサ・ベックはライフデザインのカウンセラーですが、ユーモアあふれる文章と、彼女の実際のクライアントの例を沢山載せてくれているせいで、とても読みやすい本でした。

銀行で働くのが大嫌いなのに銀行での面接に行き、面接官に「何故銀行で働きたいのですか?」と聞かれて思わず「働きたくありません」と答えてしまった人の話は、「給料が良いから銀行に勤めるべきだ」というソーシャル・セルフを、それに同意しないエッセンシャル・セルフが妨害した良い例だといいます。

また興味深いのが、著者の友人のリンダという女性の話で、リンダは以前の恋人、ロジャーと別れて以来、彼のことが忘れられなかったのですが、話を聞いてみるとこのロジャーという男性は頭が良く、パワフルでカリスマのある人物で、リンダにただならぬ影響を及ぼしたらしく、他の男性とつきあうチャンスがあっても「ロジャーに笑われるような相手とはつきあえないわ」とばかり言っていたそうです。ある日、リンダとレストランを出た著者は、リンダが道の向こうを見て凍り付くのに気がつきます。ロジャーがそこにいたのです。そのロジャーを見て著者はびっくりします。何故なら、そのロジャーは彼女が17歳の時から知っている人物で、平凡でぽっちゃりした、やや飲み過ぎる傾向のあるオタク系の男で、十数年経った後でも相変わらず平凡でぽっちゃりしたオタク系の男で、リンダから聞いた話から想像していたパワフルな男とはほど遠かったのです。著者は、これはまさに、自分以外の不当な人物に力を与えてしまうことの例だとしています。

ソーシャル・セルフだけの言う事を聞いて生活していると、毎日が楽しくなくなったり、健康を害したり、うつになったりと、毎日悶々と、アンハッピーに過ごすことになってしまいます。

大抵の人は、頭の中にソーシャル・セルフが「Everybody 」または「People」(みんな)と呼ぶ、不特定の評論家を持っています。

「仕事をやめるなんていったら、みんなの尊敬を失っちゃうわ」

「ロレックスの時計を身につけてないとみんなにカッコ悪いと思われてしまう」

などなど。著者はその「みんな」って一体誰?実際に6人名前をあげてごらんなさい、というエクササイズも紹介してくれています。殆どの場合、この「みんな」はあなたが勝手に造り上げたものだったりします。そして、万が一何人かの名前を実際に挙げる事ができたとしても、大抵の場合、実際に自分に対して批判的な人というのは、家族や親しい友人など、自分が愛する人達と共に、自分が嫌いな人達も含まれます。そう、皮肉なことに、毎日、あなたが嫌いな人達に、あなたの人生のコントロールを手渡しているのです。

この本では、そんな「みんな」をどうやって味方にするか、批判的な人達からどうやって離れるか、どうやって自分のエッセンシャル・セルフの声に耳を傾けるか、(コンパスの読み方)、過去の心の傷の癒し方などを教えてくれます。

後半部分では、自分の北極星が何かわかった際に、どのような変化のサイクルを通してその目的に達成するかを4つのセクションに詳しく分けて説明しています。

この本自体そんなに新しいものではありません(2001年)が、今でも十分通用する内容とツールが盛り込まれた本です。ウィキペディアのエントリーを見ると彼女はモルモン教徒として育てられますがその後離脱し、ダウン症の息子さんを育て、さらに離婚したあと元のダンナさんと共にゲイであることをカミングアウト、現在はオプラ・ウィンフリーの雑誌、Oマガジンにコラムを書くなど、かなり波瀾万丈な人生のようですが、これも彼女のエッセンシャル・セルフに正直に生きて来た証なのでしょうね。

まだ日本語訳はでていないようですが自分の将来が見えてこない人、現在の生活に満足していない人にはお勧めの本です。